アナ・コッキノス(『ヘッド・オン!』監督)インタビュー

 

一映画界に身を投じる前は、弁護士、調査員、産業役員などの仕事をされていたと聞きましたが、なぜそれらの仕事とは対局にあるような映画監督や脚本家に転職されたのですか? また、今後も監督業と脚本の両方を続けていきたいですか?  

いい質問ですね。たしかに自分の人生の中で大きな転換だったと思いますが、映画監督や脚本家という職業は、挑戦したいと思ってた仕事だったんです。昔は、映画関係の仕事に就こうという思いはほとんどありませんでした。十代の頃はみんなと同じように、強烈にひどい詩を書いたり、学校では舞台の脚本を書いて演出したりして、何かを創り上げることに喜びを感じていました。想像力もたくましく活発だったので、 映画が好きになったのもこの頃なんですが、どうしても映画業界で働くという観念がわかなかったんです。その結果 、法律を学んだのですが、今は勉強しておいて良かったと思っています。社会で働いた経験があるというのは、フィルムメーカーとして大切なことだと思いますし、このような経験も演出や脚本に生かし、幅をきかせることもできるからです。  

その後は、どうしても映画に対する情熱が抑え切れないところまで来てしまったので、“やってみよう”と思い、転職したわけです。今は脚本を書くことも演出することも楽しんでいるので、今後も脚本・監督の両方を続けていくだろうと思います。

一女性監督として、ゲイの人たちを描く難しさというのはありましたか?  

原作を脚色する段階で「私に本当にできるのか? この青年の考えが理解できるのか?」と思いました。しかし、私はこの複雑で矛盾したアーリに魅力を感じたんです。彼は、二つの文化の元で成長し、自分が誰なのか、どこへ行けばいいのかを見せないまま限界を越え、崖っぷちに立ってしまった。また、家族やギリシャ人としてのアイデンティティーを大切にしている一方、自分を束縛しようとする両親や文化の継承にも反発する必要性を感じています。私は特にそんなアーリの、ギリシャ人としてのアイデンティティーが生む葛藤に魅了されました。更に、アーリは自分のセクシュアリティにも困惑しています。これは男らしさとゲイであることの探究も意味し、ありのままの自分に反抗しながら自由を得ようとしたり、セックスで自分を見失おうとしたり、見つけようとしたりと、とにかく複雑です。  

この複雑さがフィルムメーカーとして、自分を最も魅了した箇所です。細部の経験は違うとしても、私は物語を内側から理解できると感じたんです。それは、私が自分が若かった頃や、無茶して生きてた頃、わからないことだらけだった頃、アングロ・ オーストラリアの文化に同化したくても民族の違いから違和感を感じていた頃を覚えているからです。ギリシャ人のアイデンティティーと自分がする綱引きのような葛藤も経験しましたし、全てを愛すると同時に嫌うことも体験しました。家族やコミュニティから離れたところで自分を確立したいという願い、家族や家族の期待に反発し、 自分の人生を自分らしく生きたいという願い、両親には言えない隠し事−これらは若い人なら誰もが通 る道だと思うんです。

一原作の「LOADED」は日本で発売されていないので、映画との類似性があまりわからないのですが、脚色するのは難しかったですか? また、映像化するのに苦労したところは?  

原作は、主人公が物語っているように書かれているので、脚色には非常に苦労しました。すべてはアーリの頭の中で起きていることだったんです。アーリの考えや思いが彩る彼の心の旅を、どのように脚色し映像化することで、観客にも同じ旅をしてもらえるかというのが最大の挑戦でした。

一主演のアレックス・ディミトリアデスの魅力とは? また彼と仕事した感想は?  

セクシーで、男らしくて、激しいアーリは、感情の起伏でスクリーンを燃え上がらせてしまうような確たる存在感を示さなければなりませんでした。私はカリスマ性を秘めたアーリを描きたかった。そしてそれは、アレックス(ディミトリアデス)にしか表現できなかったんです。最初にこの役を彼に依頼した時、彼は「納得させられるだろうか?」と心配していました。オーストラリアでの彼は、女優相手に演技する 「セクシーなティーン・アイドル」としての地位が築かれていたので、この役は彼にとって大きなリスクだったんです。しかしこのエキサイティングで実直なアーリ役は、 役者としての可能性を広げる意味で、アレックスにとって魅力的でもありました。私は彼が「ティーン・アイドル」だからこそアーリ役を演じてもらいたかったですし、 彼もそれを理解してくれました。おそらく彼は最初から私を信じてくれたのだと思い ます。  

私はまず6週間かけて役者さんたちと入念に脚本を分析しました。また、毎日アレッ クスと過ごしたことで、強い絆と信頼関係を築けました。映画の撮影に入る頃は、現場はリラックスしてましたし、私もアレックスもアーリを描き切る、演じ切ることに 全力投球できたんです。本当に彼と仕事が出来て楽しかったです。

一次回作について教えてください。  

もうすぐオリジナルの脚本を書き終えます。『ヘッド・オン!』とは全く異なる映画なんですが、内容についてはまだ秘密です。


■アナ・コッキノス

1991年VCAスクール・オブ・フィルム・アンド・TV(旧スウィングバーン)映画・テ レビ学科卒業。 同年、監督・脚本・編集を担当した短編映画『ANTAMOSI』を発表し、 数々の賞を獲得。 その後、短編映画『Only The Brave』で、1994年メルボルン国際 映画祭作品部門グランプリ、 1994年シドニー映画祭フィクション部門最優秀作品賞を受賞、世界各地の レズビアン&ゲイ映画祭でも上映され好評を博した。本作は初の長篇監督作品となる。

「ヘッド・オン!」 Head On

監督:アナ・コッキノス
製作:ジェーン・スコット 
脚本:アンオリュー・ボーベル
撮影:ジェイムズ・グランド 
美術:ニッキー・ディ・ファルコ
編集:ジル・ビルコック
出演:アレックス・ディミトリアデス(アーリ)/ポール・カプシス(ジョニー/トゥーラ)/ ジュリアン・ガーナー(ジョーン)/トニー・ニコラコプス(ディミトリ) /他

1998年・オーストラリア 35mm/カラー
配給:オンリー・ハーツ、日本トラステック

(文章構成:北条貴志/協力:オンリー・ハーツ)

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