queer de pon
 
(2001/1/29更新)
 

ドイツ・クィア映画祭 IN ケルン 現地レポート 

第10回ドイツ国際クィア映画祭開催

2000年で第10回を迎えたドイツのクィア映画祭は、毎年11月中旬から12月初旬にかけて行われる。映画祭の正式名称は“VERZAUBERT(フェアツァウベルト)”。この単語は元々、“魔法にかかったような”という意味がある。それをゲイが自分たちを指す言葉として使うようになった。“魔法にかけられてみんなとは違う存在になった”という意味合いがこめられている。ただし、否定的なニュアンスはない。そばにドイツ語を話せる人がいたらこの言葉をささやいてもらうといい。とてもソフトで耳に心地よい響きだから。

今回はプログラマー(上映作品を決定する)の1人であり、ケルンの映画祭責任者でもあるマティアス・ストルンツさんにお話をうかがうことができた。マティアスは第5回映画祭から参加。最初は広報や協賛を担当していたが、第8回からプログラミングをやるようになった。


始まりはファンタジー映画祭

まずはドイツでクィア映画祭が行われるようになったきっかけは? 
「ファンタジー映画祭だよ」
ン? 
「2000年で14回目になったファンタジー映画祭というのがあるんだけど、そのスタッフ全員がゲイとレズビアンだった。それで、“レズビアン&ゲイ映画祭をやろうよ”となったんだ(注)

第1回はミュンヘンだけ、その翌年からケルンでも開催するようになり、第8回でフランクフルトとベルリン、第10回にハンブルクが加わって現在の5都市になった。開催都市が増えた背景には、意外にもコミュニティ外からの働きかけもあった。これらの都市にある劇場の支配人たちが、クィア映画祭の開催を望んだのだそうだ。いずれもセクシュアル・マイノリティ人口が多い都市であるため、劇場側は宣伝効果 と観客動員を見込んだというわけ。

現在、映画祭全体を統括するディレクターが2人、各都市の映画祭責任者が1人ずつ。5人がフルタイムで働いていて、そのほかの人は本業を別 に持ちつつ映画祭にも関わっている。マティアスも本業はまったく別 。

二足のわらじは大変じゃない? 

「映画は好きだから楽しいよ。それにたくさんの人に会えるしね」


ケルンの人気作品は?

2000年、ケルンでの開催は11月23日〜29日の7日間だった。ケルンでは同じ映画館内にある2つの劇場を使って、同時に2作品を上映していく。たいていは片方でゲイ作品、もう片方でレズビアン作品。

人気があった作品の1つは、東京 L&G 映画祭 Web サイトでも紹介された「ウーマン・ラブ・ウーマン」。そしてクロージング作品であるレズビアン探偵映画“The Monkey's Mask”。観客動員数の上位にレズビアン作品が並んだ理由を聞くと、「ウーマン〜」の入場料が無料だったほかに「ゲイは何本も見るけれど、レズビアンはあまり本数を見ない。だからレズビアン作品は1、2本に観客が集中するんだ。たぶん、お金の問題(一般 に男性のほうがお金を持っている)があるんじゃないかな」

そしてファンタジー映画“O Fantasmo”(ゲイ作品)も関心を集めた。かなりショッキングな内容だったため、観客の反応も“大好き”と“大嫌い”の両極端で中間がなかったとか。


オープニング・パーティは古い砦で

でもケルン映画祭の一番人気はボーイズ短編集「ゲイ・プロパガンダ・ナイト」だ。これはなんと、ゲイ短編11作がつまった3時間のプログラム。上映会場内はすごい熱気だった。打てば響くという感じで、時にはどっと笑いが起こり、時には“アーァ”とため息のコーラスが。そしてボーイズ短編の夜にはオープニング・パーティが開かれるのが慣例。オシャレしてボーイズ短編を見に行き、その後パーティに行くというのがケルンの正しいゲイのあり方(?)。その会場というのが、12世紀に町の“新しい”城壁の門として造られた砦なのだから、これまたオシャレ。


Reel Sex!

ガールズ短編も同じく3時間。これも人気のプログラムだがもう1つ、レズビアンである私が楽しみにしていたのが、レズビアン・プログラマーが選ぶレズビアン・ポルノ作品集“Reel Sex!”(144分)。こんなの、なかなか見る機会ないもの。初めてこの企画が登場した第9回では賛否両論、かなりの反響を呼んだそうだ。“Reel Sex!”を始めたは理由は? 「レズビアンどうしのポルノやセックスを扱った作品はあるのに、見せる場所がないと気づいたから」第10回でも多くの女性(男性も少々)が見に来ていた。いざ上映開始。会場はしばらくしーんとしていたのだが、やがてクスクス笑いが広がっていった。なぜ? “興味はあるけれど、友達と一緒に見ると照れてしまう”からだとか。ヨーロッパは性に関してオープンだと思っていたので意外だったが、気持ちはわかる。私も正直なところ、“1人きりか、(彼女がいれば)2人でこっそり見たい”と思ったので。でもやっぱりこういう機会は貴重だし、女性の体の美しさを再認識させてくれる映像もある。セーファー・セックスをテーマにした作品などもあって、単なるポルノ作品ばかりではない。ぜひ続けてほしい企画だ。そのうちお客さんの反応も変わってくるだろう。ところで、ゲイ・ポルノはやらないの? 「ゲイ物はどこでも見られるし、最近は芸術的な作品でも過激なシーンが多くなってきてるからね」なるほど。


特集「フレンチ・コネクション」

第10回の特集は「フレンチ・コネクション」。フランソワ・オゾン作品を初めとしてフランス長短編14作品が上映された。今まで上映作品はアメリカ映画が多かったが、ゲイ・プログラムの半数がヨーロッパ作品になったのが第10回の特徴だとか。

「ヨーロッパ作品はアメリカのカミングアウト・ストーリーほどコミカルじゃない。それにも関わらず、お客さんがたくさん来てくれて嬉しいよ」

マティアスは、娯楽作品ばかりでなく、もっとアーティスティックな作品が受け入れられるようになればと願っている。

「VERZAUBERT のスタッフはファンタジー映画祭のスタッフ。だから僕らは正直なところ、スリラーやファンタジー、過激で極端な作品が好き。でも作品を選ぶ時には、あまり実験的な映画は避けると同時に、いろいろなジャンルの作品を集めるように心がけてる。今後もドイツだけでなくヨーロッパの映画をできるだけ取り上げていきたいね」

世界じゅうにセクシュアル・マイノリティの映画はたくさんあるけれど、配給先がそういう映画として扱われるのを嫌がって上映を渋ることがあるのが悩みだと言う。これはどこのクィア映画祭でも同じかもしれない。


社会問題に挑む Queer Fokus

VERZAUBERT では第10回から“Queer Fokus”というセクションを設けた。このセクションでは毎年、性とジェンダーに関する社会的なテーマを1つ選び、それに合った作品を紹介していく。どの作品もセクシュアル・マイノリティに関連してはいるが、必ずしもそれがメインのテーマである必要はない。今年のテーマは“子供に対する性的虐待”。“ゲイは性的虐待に走る傾向が強いのではないか”、“性的虐待を受けたからレズビアンになるのではないか”という意見がある。だが性指向に関係なく性的虐待は起こりうるし、それと同時に性的虐待はどのような性指向の人をも傷つけるという考えに基づいて、5作品が選ばれた。そのうちの1つが日本の「ファザー・ファッカー」。


クィア映画をもっと見よう

最後に、マティアスから日本のみなさんにメッセージ。

「ドイツに遊びに来てください。ドイツに限らず、映画祭にもっと多くの人に来てほしい。見る人がいなければクィア映画は作れないから。たとえばトム・クルーズが出ている大作は、あなた自身の物語ではない。でもクィア映画はあなた自身の物語です。コメディばかりでなく、いろいろな映画を見てほしいですね」

 

注: 第10回で“クィア映画祭”に名称を変更した。なお、文中の“クィア”は、セクシュアル・マイノリティの意味で使っている。

ドイツ映画祭URL http://queer-view.com/verzaubert/index.htm

(右緒きりは)
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(2001/1/29更新)

 
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