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『I.K.U.』〜シューリー・チェン監督 SPECIAL INTERVIEW
(インタビュアー:マーガレット)

20世紀末。1999年の夏に撮影を終えてすぐに、慌ただしく日本を離れていったシューリー・チェンと再会することになったのは、半年以上のポストプロダク ションを加えられて完成したSFサイバー・ポルノ・ムーヴィー『I.K.U.』が世界各国の映画祭で話題を振りまいたというエピソードとともに、日本公開のプロモーションのために再びこのサイバー・シティTOKYOにやって来たからだ。その時、時代はすでに21世紀に変わっていた。

マーガレット(以下、M)● シューリー、ひさしぶり! 『I.K.U.』完 成、おめでとう。噂は聞いてるわよ。
シューリー・チェン(以下、S)● Oh! Magarette!  

シューリー&マーガレット窓一つないビルの一室で数多くのメディア取材を立て続けにこなしてきたのであろう彼女の顔は、疲れのせいだろうかわずかに曇っていた。しかし、「マ・ガレット! 」と聞こえる弾むような声は、相変わらず明るくポジティヴな響きをさせた。インタビューは、シューリーの申し出により近くのカフェに場所を移すことにした。  
Macintosh PowerBook G3 を詰めたリュックを背負って屋外に出るや、彼女は精気を取り戻したのか、人混みをすり抜けてすたすたと歩き出した。そう! 彼女はなによりも閉ざされているところや、一所に縛られることやが嫌いだったのだ。

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【『I.K.U.』は、ゲイ映画でもレズビアン映画でもない。 「クィア・ムーヴィー」なの。】

M● プロデューサーの浅井氏から聞いたのだけれど、『I.K.U.』を各国のレズビアン&ゲイ映画祭に出品したら、国によって反響に大きな違いがあったみたいね。ある映画祭では絶賛をもって受け入れられたが、ある国ではストレートのセックスシーンがスクリーンに映し出されただけで、ブーイング。席を立つ観客もいたんだって?
S● 私は今まで多くのゲイ&レズビアン映画祭に行ったことがあるけれど、いつもガッカリさせられてきた。だってまだまだ、それぞれのコミュニティは閉じていて、 他のセクシュアリティを受け入れようとはしていない気がする。そんな状況こそ変えていかなければいけないと思う。  
だからといって、私はゲイ/レズビアンのコミュニティと争おうとしてるワケじゃ ない。私が作りたかったのは、ストレート達にクィア・セクシュアリティを認知させることが出来る映画。いままでの「ゲイ映画」や「レズビアン映画」では出来なかったことね。『I.K.U.』はもちろん「ノンケ映画」ではない。だからといって、「レズビアン映画」とか「ゲイ映画」として映画祭に出品することも気が進まない。この映画はまぎれもない「クィア・フィルム」なのだから。
M● たしかに『I.K.U.』では、女と女、男と男、女と男……、女装と女装のカップルまで登場して、あらゆるジェンダーとセクシュアリティの組み合わせによるセックスが描かれているものね。
S● もちろん私にとって女性の観客はもっとも重要だし、クィアな人達にたくさん観てもらいたいと思う。だけど、お金を払って見に来てくれるストレートの人達にもまた満足してもらえる映画にしたかった。より多くの観客に観てもらえる作品を作りたかったから。だいたい、ゲイだけが「ゲイ映画」を、レズビアンだけが「レズビアン映画」を観るわけじゃないでしょ。  
そして私は、この作品で、ストレートの人達に新しいセクシュアリティのあり様を 提示することに挑戦するのが目的でもあったのだから。言ってみれば、クロスオーバ ーな映画ね。
M● セクシュアリティの枠を越境、つまりクロスオーバーしていくことが、「クィアムーヴィー」の役割だということなの?
S● かねてから言ってきたことだけど、「クィア・ムーヴィー」はきっとセクシュアリティの硬直した状況に新しい視座をもたらすはずだから。

【初めてスクリーンに映し出される、「男のペニスをくわえる男」!】
【“おなべ”パーティは、セクシュアリティを祝福するため!?】
【ディルド(張り型)は何故、ペニスの形?】
【セックスのメモリーを蓄積したハードディスクとしての肉体】
【次回作は、全編「射精」の映画を撮るつもり。】
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