queer de pon
 
(2001/4/11更新)
プロデューサーに気をつけろ!

FRANCHESCA
踊るのよ、フランチェスカ! 
FRANCHESCA PAGE(1997)
監督:ケリー・セイン
出演:ヴァーラ・ジーン・マーマン、ロジー・デ・パロマ、タラ・レオン

渋谷シアター・イメージフォーラムで
4月28日よりレイトショー公開
配給:巴里映画
オフィシャル・ホームページ http://www.pariseiga.com/fran.html

映画にしろ演劇にしろ音楽にしろ、「プロデューサー」というのは影響力のわりに実際のところどんな仕事をしているのか分かりにくい。俳優やミュージシャンは実際に演技や演奏をする人、脚本家や作詞家・作曲家はその作品を作った人、じゃあプロデューサーは?――という良く言えば純情、悪く言えば無知なこの疑問にまさにうってつけの映画が公開される。そして、それと奇妙にシンクロする映画も発見!    果たしてプロデューサーの正体とは?   

第9回L&G映画祭のオープニングを飾り、このGWに堂々公開の『踊るのよ、フランチェスカ!』。  
かつてショーガールだったリタは娘のフランチェスカをブロードウェイのスターにするべく日夜励むステージママ。そんなリタの期待とは裏腹にちっとも才能の片鱗を見せないフランチェスカがなぜかミュージカルの主役オーディションに合格してしま う。一体なぜ? そこには、興行が失敗すれば集めた資金はそっくりそのまま自分の手に渡るという、プロデューサー、ベロニカの腹黒い陰謀が…。  
なるほどね〜、プロデューサーって投資家から資金を集めてショーの興行全体を統括する人なのね〜、んで、腹黒いと(←メモる)…って溜飲を下げてる場合じゃない!  なぜなら、この映画の見どころはそんな悪徳プロデューサーに立ち向かうリタの熱い情熱に満ちた歌とダンスにこそあるのだから。近頃珍しいミュージカル映画であるこの映画、悪徳プロデューサーが陰謀を仕掛ける劇中劇(『レディにお任せ』)はもちろんのこと、随所で華麗なドラァグ・クイーンテイスト溢れる歌とダンスが展開され る。  
そして、その歌と踊り自体がプロデューサーの陰謀そっちのけで「私が主役よ!」 というオーラを放っているということ。ミュージカル映画と言うと、いきなり街角や窓辺で歌い出したりしてその不自然さに気恥ずかさを感じてしまったりするけれど、 リタを演じるヴァーラ・ジーン・マーマンやベロニカを演じるロジー・デ・パロマの 強烈な個性を目の当たりにすると、自然=リアリティなんてモノサシを銀幕の中に当てはめてしまう自分の感性の方が貧乏ったらしく思えてしまう。  
普段の生活よりも銀幕の中でそして舞台の上で歌い踊っているときの方が輝いているならば、その輝きこそ現実であり、素顔の自分より念入りにメイクした自分の方が 好きならば、その自分こそ本当の自分であるということ。それはまさにフェイクな輝きに満ちたドラァグ・クイーンの存在に通 じるものであり、この映画で主役のリタを演じるヴァーラ・ジーン・マーマンがドラァグ・クイーンディーバであるということとピッタリと重なる。「ありのままの自分でいたい」「本当の自分を分かってほしい」 というナイーブさよりも、「私はなりたい自分になるのよ! 歌うのよ! 踊るのよ !」というバイタルな前向きさがここにはある。そしてそれは、「私はプロデューサーの操り人形じゃないの。私の人生は私のものよ。私が主役よ!」というメッセージでもあるということ。  

そんな『踊るのよ、フランチェスカ!』のプロデューサー(ベロニカじゃなくて、 本当の映画のプロデューサー)が作品の下敷きにしたんじゃないの? と思える映画がその名もズバリ『プロデューサーズ』(1968)。演劇プロデューサーのビアトリクスと会計士ブルームは、資金を集めるだけ集めて興行を行い、その興行が失敗すれば資金はそっくりそのまま自分達の手に入ることに気づき、最悪の脚本&演出家&俳優を 探し出す。そして、史上最悪の舞台『ヒトラーの春』(←題名自体がすでに道を踏み外している)の幕は上がる…と、まさに『踊るのよ、フランチェスカ!』にメロン… じゃなかった、うりふたつな物語。  
1969年のアカデミー賞最優秀脚本賞に輝いているこの映画、確かに物語はオスカーの栄誉にふさわしく細部にわたって緻密に練られているのだけれど、その向かっているベクトルがナンセンスコメディ街道まっしぐら。登場人物がみんな一癖双癖あるの は当たり前どころかみんな少なからず針が振り切れていて、「止まれよ、おい」と心のなかでツッコミっぱなしになること確実。ナチス信奉者の脚本家リーブキンの壊れっぷりやヒトラーを演じるLSDの「ラブ・パワー」の熱唱、さらにその最悪の脚本と役者を仕切る女装癖のあるゲイの演出家、そして極めつけの劇中劇『ヒ トラーの春』の華麗なレビュー…と、物語の本筋じゃないところにも、というより本筋じゃないところにこそ無駄 に(笑)エネルギーと愛情が注がれているという味わい深さ。(ちなみにこの映画は、この4月からネイサン・レイン、マシュー・ブロデリック 主演で、アメリカ、ブロードウェイでミュージカル化されるとのこと)  

そして、『踊るのよ、フランチェスカ!』と『プロデューサーズ』の物語を現実にしたような、「もしかして、この映画のプロデューサー、わざと最悪の作品を作ろうとしたのでは…」と思わせるような強烈な映画が現実にあったとしたら…。…あるんですよねぇ、実は(笑)。  
あの伝説のドラァグ・クイーン、ディヴァインの『ピンクフランミンゴ』に続く主演作『フィメール・トラブル』(1974)。「物語は〜」と真面目に語るのが間抜けに感じ るくらい、とにかく針の振り切れたこの映画。ディヴァイン演じるドーン・ダペンポートがクリスマスの朝にプレゼントが気に入らないと家を飛び出してから電気椅子で死刑になるまでの一生を描いた物語は、一言で表現するならディヴァイン版「女の一 生」(?)。  
『踊るのよ、フランチェスカ!』のドラァグな派手さや『プロデューサーズ』のナンセンスな馬鹿馬鹿しさが、どこか上品で品行方正に感じられてしまうくらいに、ディヴァインの毒々しさと悪趣味が徹底した『フィーメール・トラブル』。美容室のオーナーであるダッシャー夫妻がダベンポートを写真のモデルに起用し、最後にはショーも企画するというふうに、この映画にも最悪の作品を生み出そうとする仕掛け人 (=プロデューサー)の姿がある。  
けれど、他の2作と決定的に違うのは、この映画の場合、その作品の最悪ぶりを仕掛け人が最悪と思っていないということ。確信犯ではなく天然のいかれっぷり。そして それはおそらく誰よりもディヴァイン自身がそうなのだということ。プロデューサーが 誰であれ、脚本が何であれ、「役づくり」なんて言葉とは100万光年かけ離れた、主役以外にあり得ないディヴァインの恐るべき存在感!  

それにしてもこの3作品、プロデューサー(的人物)の存在という共通 項以上に、その劇中劇(ショー)の主役がプロデューサー以上に目立ち、ときにはプロデューサーの思惑を超えて暴走しているところがミソのような気がする。舞台の上に立ってスポットライトを浴びるのは他の誰でもないこの私なんだから! とでも言うように。目立ちたがり屋、ナルシスト…そんな言葉も思い浮かぶけれど、でも、主役になって何が悪いの? 私の人生は私のものだもの!   
だから、『踊るのよ、フランチェスカ!』のなかで、フランチェスカを叱咤激励するリタの存在は、「あなたの人生、あなたが主役なのよ! 」と言っているようで、それはとても気持ちよく響いてくる――さぁ、踊るのよ! 

(井上 澄)

PRODUCERS
プロデューサーズ 
THE PRODUCERS(1968)
監督:メル・ブルックス
出演:ゼロ・モステル、ジーン・ワイルダー
FEMALE TROUBLE
フィメール・トラブル 
FEMALE TROUBLE(1974)
監督:ジョン・ウォーターズ
出演:ディヴァイン、デビッド・ロチャリー、ミンク・ストール
backtop