queer de pon
 
(2001/6/18更新)
「プレイボーイ、ロジェ・ヴァディムの審美眼」

ロジェ・ヴァディム。1928年1月26日、パリ生まれ。2000年2月11日、 ガンのためパリにて死去。享年72歳。父親はロシア人。俳優を志して10代の半ばから舞台に立つが、食うために記者になる。せつない。そしてテレビ界を経て映画界入り。結婚のお相手はブリジッド・バルドー、アネット・ストロイベルグ、ジェーン・ フォンダ。そしてあのカトリーヌ・ドヌーブとも結婚同然の同棲。「映画界のカサノバ」と呼ばれていたそうな。気に入らねぇ。 今回はヴァディム作品の中から3作品(「血とバラ」、「バーバレラ」、「ドンファン 」)を選び、独断と偏見の無責任コラムを展開させていただきます。まずは簡単な作品の紹介から。

 


血とバラ
ET MOURIR DE PLAISIR (1960)

「血とバラ」

レ・ファニュの「吸血鬼カーミラ」を映画化したもの。主人公カーミラはいとこのレ オポルドにほの字(死語?)。でもレオポルドはジョルジアという恋人と結婚を控えているの。で、なんだかんだで同じような恋路で苦しんだ先祖である女吸血鬼ミラーカがカーミラに乗り移り、ドタバタするお話。


バーバレラ
BARBARELLA(1967)
出演:ジェーン・フォンダ
配給:日本ヘラルド映画
CIC・ビクターよりDVD発売中

「バーバレラ」

エロチックSFの傑作、らしい。時は宇宙歴紀元4万年だそうですよ。恐ろし〜い兵器を開発しちゃった迷子のデュランデュランを追って、バーバレラの宇宙船が飛び回る。飛び回るっつーか、落ちまくるっつーか。いろんな場所で出会う個性的(っていうか不審)なキャラ達と力を合わせつつ、エッチしつつ、お決まりの悪退治。


ドンファン
DON JUAN 1973
OU SI DON JUAN ETAIT UNE FEMME (1973)
出演:
ブリジッド・バルドー
ロベール・オッセン
ジェーン・バーキン
東北新社よりビデオ・DVD発売中

「ドンファン」

とんでもなくビッチな女の男手玉取り騒動記。

さて、今回ワタクシが書かせていただきますのは、上記でご紹介したヴァディムの「 レズビアン的要素を持った3作品」を観て、彼の女性を見る目は果 たしてレズビアン に通用するのかどうか判断する、というもの。結論から言わせていただきますと、まずこの3作品、ちーともレズビアン的要素がありません。っていうか、ヘテヘテです 。ということで当然、奴の女性を見る目はビアンに通じません。っていうか、ただのエロおやじです。

 

なぜこの3作品が「レズビアン的要素を持った」とオファーされたのか、理由は簡単。「血とバラ」にはカーミラとジョルジアのキスシーンがあり、「バーバレラ」 には主演のジェーン・フォンダに「ハロー、プリティ」などと言いながら近づく悪女皇帝陛下がいて、「ドンファン」には主演のブリジッド・バルドーとジェーン・バーキンのやんわりとした絡みがあるから。だからってねぇ…。「血とバラ」のキスシー ンは女吸血鬼ミラーカに乗り移られたカミーラが、ちょびっと怪我をしたジョルジアの唇から出た「血」に惹かれただけだし、「バーバレラ」に出てくる悪女皇帝陛下は ただのナルシストなだけ、「ドンファン」に至っては劇中に出てくる救いようがない脂ギッシュな最低男(姿三四郎にやや似)にまぬ けな思いをさせるために(本当にまぬけだった)その妻役のジェーン・バーキンと絡むのだ。やんわりと。

その時々の女2人のツーショットや、様々な思惑があるとは知らずにいるお相手(「血とバラ」の場合はキスされるジョルジア、「ドンファン」では妻役のジェーン・バ ーキン)の表情などは見ていて悪い気はしないが、でもこの2人も最終的には男寄りな態度が見られ、興醒め。ジェーン・バーキンは理屈抜きでかわいいけどねぇ…(余計なコメント)。「ドンファン」の主人公ジャンヌのあまりの男振り回しの姿を見て 、「実は男嫌い?」という視点から「ビアン的」と流すことも考えたが、やはりそれは深読みしすぎ+浅はかすぎ。あ、あったあった、「ビアン的」な部分。「ドンファン」に出てくるジャンヌの財産管理だか何だかしてる友人役の女の子。見た目がちょっとだけダイキーなのよね…。って、それだけかい。

ヴァディム作品すべてがそうなのか、それともこの3作品がたまたまそうなのかは計り知れぬ が、結局、自分のセックスファンタジーをハズかしげもなく披露しながら「俺様の女っていい女だろう〜。」と自慢したいだけなんじゃ?という気が。女同士のシーンも、「女さえとりこにしてしまう魔性の女」(これも奴のセックスファンタジーのひとつと思われる)を訴えたいだけのように見えるし。

おおっと、何だか悪口ばかりだが、これはあくまで「ビアン的」という視点に囚われて観た場合。それがなければ…「血とバラ」、「ドンファン」には大して興味なし。 「バーバレラ」、これはすごいぞ。この映画、マジ? ヴァディムはマジで作ったのだろうか。何せSFですよ。当然うちらの想像もつかないような世界が広がっているはず 。ところがどうよ。冒頭、バーバレラが宇宙遊泳しているシーンからイキナリちゃちい。それも半端なレベルじゃない。そしてハイテク機能満載のはずの宇宙船、小道具達のチープさったらもう…「あれ? 小学校の図工の時間に作ったやつ? 何でここに? 」と、思わず郷愁。さらに計算されつくした間の悪い演出、どう考えても傍若無人なストーリー…どっかの家の裏庭でこっそり撮ったんじゃねえか? と思わせる仕上がりになっております。あ、ちなみにこれは褒めているので。念のため。 そしてさらに注目なのが主人公バーバレラのキャラ。すべてのトラブルの原因はコイツにあり。巻込み系ね。そして映画史上に残る巻込まれ系キャラ、有翼人パイガー。 悪女皇帝陛下に目をつぶされた上に死の迷路に放り込まれたという、「もう死んだら? 」と言いたくなるほど悲惨なお助けキャラ。バーバレラにそそのかされて、再び悪女皇帝陛下のいる悪の都へ。だいたい、バーバレラのせいでさんざんひどい目に合わされた挙げ句に生死の境すら彷徨うハメになったパイガーに、目覚めた途端「私を宇宙船まで連れて行ってくれる?」って、アンタ…。でもそんなバーバレラにまぶしい笑顔を返してしまうジュード・ロウ似のパイガー、いい人すぎ。っていうかM。

その他、今回の3作品にはおいおい、アイツどうなったのよ? というキャラが必ず登場。「血とバラ」ではカミーラにほの字(だから死語?)らしい友人のナルディ。「バーバレラ」に関しては最後の混乱の中、革命戦士のディルダノとピン教授はどうなったんよ? そして「ドンファン」では先にも書きました、ちょっぴりダイキーなお友達。どんな風にほったらかしなのかは観てのおたのしみ。ヴァディムはわき役の使い方がヘタッピすぎる。それは主人公の魅せ方に執着しすぎのせいね。それがいい面 でもあり、悪い面でもある、って感じで。

と、そんな感じで相当つっこみがいのあるヴァディム作品。「ビアンの目」で観るとお口直しが必要となるが(口直しできる作品があれば苦労しないが)、他人のセックスファンタジーでも垣間見るかな、という気分の時には(どんな気分だ)ぜひともおすすめです。

(iri ) 第10回映画祭にて、「3秒の憂鬱」を上映

 
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