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「本邦当世「レズビアン・ムービー」事情
          ―リアリティの問題ー」
written by 鈴木満月
 最近の日本のレズビアン映画ということで『プープーの物語』、『LOVE/JUICE』、『贅沢な骨』を選んでみた。

 この3本の中で、厳密にレズビアンとして登場するのは『LOVE/JUICE』のチナツだけである。「キレイ系のボーイッシュ」な彼女は、実際クラブでもよく見かけるタイプ(ちょっと綺麗すぎる気はするけれど)。
それから、明確にヘテロ・セクシュアルとして描かれているのも『LOVE/JUICE』のキョウコだけ。惚れっぽくて遊び好きでその日暮らしの彼女も、ちょっと不思議ちゃんなところもあるけれど、きっとよくいるタイプ。
 友達だと思っていたのにどんどんキョウコに惹かれていってしまうチナツと、好きだといわれても曖昧な言葉ではぐらかすキョウコ。キョウコの甘い残酷さは、友達を好きになってしまったレズビアンなら、きっと味わった覚えがあるはず。「死んだら一番好きな人に自分を食べてほしい」なんていう大げさなせりふも、そんな会話をフライドチキンを食べながら交わすというのもなかなかリアルだ。

 『贅沢な骨』でも女ふたりの同居が描かれているが、こちらはいったいどうやって一緒に暮らすようになったものやら、一切触れられていない。
 不感症で男とのセックスを商売にしているけれど、実はサキコに惹かれているミヤコ。幼いときのトラウマで自分を汚れていると思いこんでいるサキコ。ふたりの人物像は、現実によくあるかどうかはさておき、映画や小説、漫画の世界では「よくある設定」。
 ま、それはいい。ふたりに絡むシンタニという男が始めから終わりまで正体不明なままだというのも不自然な感じはしないし、延々と山手線の発車号令をかけ続けるミヤコの客だって、たぶんいると思う(むしろ登場人物の中では一番「リアル」かも)。
 しかし、演出の端々にまったく現実的でない部分があるのがつい目に留まる。それは、たとえば手すりがある階段をむりくり松葉杖で昇ろうとするとか、松葉杖の人間に人形を持たせるのに袋にも入れてやらないとか、一見些細なことなのだけど物語に深く関わっている部分なので、もう少し丁寧に描いてもらいたい、と思ってしまうのだ。
 それに追い打ちをかけるようにして、過剰に劇画調なせりふの数々がワタシを世界から締め出す。稲光を受けながら「なんでこんなことを話してるんだろう」とつぶやきつつ自分の過去を語るサキコはいうにおよばず、「人間はみんな汚れてるんだ」と絶叫してしまうシンタニも、「あなたのことを好きだったの」と告白してしまうミヤコも、みんなみんな「私を理解してビーム」を発し始めるのだ。
 これらのせりふが耳を打つたび、そこまでやらなくても観客は分かるよーと監督に言いたくなってしまうのだった。

 そして『プープーの物語』であるが、こちらはそもそもリアルに描こうなどという意図はハナからない。その証拠に、物語に関係ない人物は一人として画面に出てこないのだ。遊園地でも、ゴルフクラブのレストランでも、スーパーの店内でも、あるはずの人影が一切ない。まるで世界は終わってしまって、主人公とそれを取り巻く人々しか生き残っていないかのように。
 その反面、盲目なのに車を運転できる殺し屋、車のトランクに棲んでいるらしい白人の少年、子どもを産んだゲイなど、いるはずのない人物が次々に現れる。そもそも主人公の一人、スズからして、どうも2年前に殺されたらしいのだ。
 たった一つの確かなものとして描かれるのは、フウとスズの関係である。スズを誰にも触らせたくない、スズは自分が守るのだというフウの思いは、やがてスズにも届く。
 これはきっと、フウの夢なのだとワタシは思う。それを夢だと語らせていないのが、この映画のよい点だとも。

『LOVE/JUICE』と『贅沢な骨』には、どちらも主人公たちの関係を象徴するものとして金魚が使われている。澄んだ水の中で泳ぐ金魚の姿は美しい暗喩としてワタシの心を打つ。
 けれど、女性同士の恋愛が、この「狭い空間に閉じこめられた美しい存在」として描かれるかぎり、レズビアンの閉塞感も存在し続けるのだと思う。ゲイ映画には「見て楽しい!」と思える作品があるのに、レズビアン映画にはそういう作品が少ないのも、この閉塞感のせいなのではないか。胸に痛みを感じてため息をつくのもいいけど、たまにはスカッと笑いたい。
 願わくば、金魚には自然な水の中に泳ぎだしていってほしい。たとえその水が濁っていて、先がまったく見通せないにしても。赤く愛らしい姿を失って、フナやドジョウになってしまうにしても。

(2002/05/03up)
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作品紹介
贅沢な骨(2001)
監督:行定勲
出演:麻生久美子、つぐみ、永瀬正敏

売春婦のミヤコは「不感症だからこの仕事ができる」と言って見ず知らずの男と寝る。
そんなミヤコをひとりで影踏みをしながら待つのが同居人サキコの日常だった。しかし、客として出会ったシンタニとのセックスで「初めて感じた」と、ミヤコはサキコにうち明ける。やがてミヤコはシンタニと「仕事ではないセックス」を楽しむようになる。
影踏みに夢中になってけがをしたサキコと、シンタニとのセックスに溺れているかのようなミヤコ、そして奇妙にさめたシンタニを加えた3人暮らしが始まる。
3人の関係を象徴するのは、ジューサーミキサーの中の3匹の金魚。狭いながらも平和に泳ぐ3匹の暮らしは、スイッチ一つで残酷に終わってしまう運命にある。
監督は、「GO」の行定勲。

オフィシャルページ

http://www.movie.co.jp/zeitaku/
配給:スローラーナー
ビデオ・DVD発売:ケーエスエス
 
LOVE/JUICE(2000)
監督:新藤風
出演:奥村ミカ、藤村ちか

真っ赤な壁の小さな家で一緒に暮らすチナツとキョウコ。一つのベッドで眠るしキスもするけれど、恋人同士ではない。チナツはレズビアン、キョウコはヘテロ。彼女に振られてチナツが泣くのをキョウコが慰めた夜から、チナツの心は一気にキョウコに向かっていく。けれどキョウコは「チナツは好きだけど、セックスはしない」の一点張り。
生活費を稼ぐためにバニーガールのバイトをしていたふたりだったが、キョウコがバイトを休んだ日、チナツは店長にレイプされる。翌日、チナツはキョウコに「抱いて」と頼んだが拒絶され、家を飛び出してしまう。
ベルリン映画祭新人監督賞受賞作。

JAPAN MOVIE DATABASE DATA
http://www.jmdb.ne.jp/2000/dx001230.htm
配給:つんくタウンフィルムズ
DVD発売:J.V.D.
 
プープーの物語(1997)
監督:渡辺謙作
出演:上原さくら、松尾れい子

赤ん坊を連れてヒッチハイクの旅をするふたりの女の子、フウとスズ。目指すのはスズが昔付き合っていた男の家だ。しかし大好きな「青い車」が通りかかると、スズは赤ん坊を捨て、男を訪ねるのもやめると言い出す。スズを大好きなフウは釈然としないままスズに従い、スズを守るために「青い車」の持ち主である自称プロゴルファーを殴り倒す。やがて赤ん坊を盗まれたといってふたりを追いかけてきたゲイカップルが現れ、銃を突きつける。

JAPAN MOVIE DATABASE DATA
http://www.jmdb.ne.jp/1998/dv000850.htm
配給:リトルモア

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