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野生の葦(1994)
Les Roseaux Sauvages
監督:アンドレ・テシネ
出演:エロディー・ブシェ−ズ
   ガエル・モレル
   ステファン・リド−
セザール賞受賞
作品賞/監督賞/脚本賞/主演女優賞

配給:フランス映画社
DVD発売:紀伊国屋書店
IMDb data

http://us.imdb.com/Title?0111019

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アンドレ・テシネの世界(1) 「野生の葦」
written by ato

「監督自身の十代の青春体験を出発点とすること、青春のベースとなった音楽を存分に盛り込むこと、最低1シーンは“ブーム”(少年少女だけのパーティー)を入れること」という条件のもと、元はテレビのシリーズものとして出発した企画が、監督の熱意のあまり、出来上がったら映画になっていたというこの映画。(シャンテ・シネ映画プログラムより)

舞台は七年半にわたったアルジェリア独立戦争が終わりを迎えようとしている1962年、フランス南西部の農村地帯の村。日本でいえば高校3年生にあたる受験を控えた同級生4人を巡る物語。たった4人の物語ではあるものの、当時のフランスの時代背景や、政治的な動きを知らないと多少理解しずらい部分もある。「世界がもし100人の村だったら」ではないけれど、たった4人の中に見事に時代の悲劇を反映させ、対立と憎悪と寛容と、それぞれの思春期の不自由さと切なさと、若さゆえの柔軟さと強さを、光に包まれた美しい映像で切り取ったような映画である。

同性愛が取り上げられた映画の中で、これほど同性愛という、一人の青年にとっては大きな事件を、同世代の友人たちの持つ、それぞれの痛みと見事なまでに並列に並べ、相対化してしまった映画もないのではないだろうか。

アルジェリアへ入植したフランス人の父を持つアンリはアルジェリアで生まれ育ったが、アルジェリア側の民族解放戦線による攻撃で父を亡くし、フランス本土に追い返される。顔の下半分がえぐれた父の遺体を見てショックを受け、フランスの極右植民主義テロ集団OASの信望者となる。同じクラスにいるセルジュはイタリア系アルジェリア人で、兵役に行っていた兄をOASの攻撃により亡くすことになる。マイテは共産党員であり、また教師でもある母親の影響を強く受け、男性に対して強い警戒心を抱いている。共産党は反OASであり、アンリとは表面上相容れないが、マイテとアンリは心の奥底で惹かれてしまい、お互いのイデオロギーを越えて心を通わすことになる。

そんな混沌とした関係の中で、フランソワの悩みは同性愛であることなのだ。60年代の田舎の村、しかもキリスト教の影響が強いフランス(ヨーロッパ)で生活する男の子にとっては、確かに重大な事件であり、当人にとっては切実な問題であることにかわりはない。しかし、この映画に描かれるフランソワは、どこか4人の中では浮いている存在に見える。他の3人が、否が応でも戦争の影響を受け、それぞれの立場でそれぞれのイデオロギーが決定されてしまっているのに、フランソワは神も信じていないし、政治にもそれほど関心を示さない。大好きな映画のことで頭がいっぱいで、同性愛であることに気づいてからは、目の前の愛しい男と抱き合うことばかり考えている。なんだか微笑ましいし、一番幸せそうな気がしてしまう。

映画には映画の視線がある。それはもちろんカメラの視線であり、監督の視線であり、そして客としてスクリーンを見る視線である。それは映画の中の、ある一人の人物の視線とすりかわることもあれば、誰でもありえない「神の視線」になることもある。

自分という殻の中から物事を見ているとき、ついつい近視眼的になって、悲劇の主人公気取りになってしまうことは良くあることだけれど、全てを平坦に眺める視線を映画の中に見るとき、ふと楽になることができるのは僕だけだろうか? 自分という存在が、ある視線の向こう側にしか存在しないことを思い出させてくれる。

(2002/06/23up)
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