東京国際レズビアン&ゲイ映画祭は1992年、ゲイ・アート・プロジェクトの有志により産声を上げました。 同性愛を扱った映画やテレビドラマ、書籍などが注目を集めていた時代でしたが、自分たちの手で自分たち のありのままの姿を表現した映画を上映できる場を作ろうという思いからこの映画祭の歴史は始まったのです。

上映作品としては、題材や製作規模、知名度などの点で、日本では商業ルートに乗りにくいインディペンデン ト映画や短編、ドキュメンタリー、そして日本のレズビアン・ゲイの映像作家の作品に焦点を当てたり、その 時々の話題作を上映しています。

日本国内でのプレミア上映として、アメリカのインディペンデント映画をリードするグレッグ・アラキ監督の 「トータリー・ファックト・アップ」(第4回)、レズビアン映画界の「ゴッド・マザー」であるバーバラ・ ハマーが隠蔽された同性愛の歴史を力強く描きだした「ナイトレイト・キス」(ベルリン映画祭銀熊賞受賞) 、ブロードウェイでの大ヒット劇の映画化である「ジェフリー」、NYで行われるドラッグ・クィーンのお祭り を捉えたドキュメンタリー「ウィッグ・ストック」、アカデミー賞短編賞を受賞した「トレヴァー」(以上第 5回)、LAのハスラーの姿をセクシーに描いた「ハスラー・ホワイト」、昔の女優の姿を追ったユニークな「 ウォーターメロン・ウーマン」、カンヌ映画祭で話題を呼び、ジニー賞(カナダのアカデミー賞)の作品賞を 受賞した「百合の伝説」、イギリスに住む思春期のゲイの姿を繊細に描いた「とても素敵なこと〜初恋のフェ アリーテール〜」(サン・パウロ映画祭国際審査員賞受賞)(以上第6回)、オペラへの愛情を綴った「愛の 破片」、中国映画としては初めて同性愛を主題にした「東宮西宮」、レズビアンの少女時代を理知的に綴った 「ハイド・アンド・シーク」(以上第7回)などが挙げられます。

また将来性のある若手映画監督らの作品を上映することも多いので、若い才能のショーケースとしての役割も 兼ね備えています。ジョン・ハート、ジェイソン・プリーストリーを主演に迎えて現代版「ベニスに死す」 ともいえる「ラブ&デス」(98年)を撮ったリチャード・クウィートニオスキー監督の「ディナーへようこ そ」、前述の「ウォーターメロン・ウーマン」の監督シェリル・ドゥニエの「彼女は止まらない」、そして 自伝的なドキュメンタリー「大阪ストーリー」が内外から絶賛された中田統一監督の「ミノルと私」(以上 全て1993年第2回の当映画祭上映作品)、日本映画学校の卒業制作である「ファーザーレス」(マンハイム ・ハイデルベルグ国際映画祭国際批評家連盟賞&ドキュメンタリー部門グランプリ受賞、ニューヨーク大学国 際学生映画祭特別賞受賞)、アカデミー賞にもノミネートされたアンドレ・テシネ監督の「野性の葦」に主 演していたガエル・モエルが、同じ共演者であったエロディ・ブシェーズやステファン・リドーを使って監 督した「フル・スピード」(ちなみにブシェーズは1998年のカンヌ映画祭で最優秀女優賞を受賞していま す)、グレノーブル映画祭を始め多くの映画祭で受賞するなど、一躍フランス映画界の寵児となったフラ ンソワ・オゾン監督の「サマー・ドレス」などが挙げられます。

また同性愛を主題とした映画を上映するだけではなく、上映作品に因んだディスカッションなども企画行っ ています。「二十歳の微熱」や「渚のシンドバット」などで知られる橋口亮輔監督をお招きしてレズビアン とゲイとの映像表現について(第3回)や、「そんなのかんたん!−アメリカ小学校同性愛教育の現場−」 の上映に伴い、「同性愛嫌悪に汚染されていない子供たち?」と称し、同性愛についての教育を学校の現場 ではどのような取り組みをなされようとしているのかを教育の最前線で活躍している方々をお招きしたり、 「トランスセクシャルからの挑戦」の上映に伴い埼玉医科大学総合医療センター形成外科の原科孝雄さんに よる性転換手術に関するレクチャー(以上第6回)、「ブリティッシュ・ゲイ・TV」というイギリスのTV 局が制作した同性愛を主題とした番組の特集上映に伴い、イギリスのTVディレクターであるクリス・クラ ークさんと日本のTVディレクターである高橋直治さんによる両国のTVにおける同性愛表現の違いのディス カッション(第7回)など様々な主題を基に話し合いの場を設け、単なる映画上映を超えた意見の交換の場 としても評価が高いのです。

来場ゲストとしましても「ハスラー・ホワイト」の監督ブルース・ラ・ブルース&リック・カストロと主演 俳優であるトニー・ウォード、「ウォーターメロン・ウーマン」の監督シェリル・デュニエ、「ハイド・ア ンド・シーク」の監督スー・フレドリック、レズビアン短編集「骨がビリビリ」のキュレーター、シャーリ ー・フリロ、ゲイ短編集「フォー・シーズンズ」のキュレーター、エリック・シュリプなどが挙げられます 。直接、映画の作り手と触れあう場の貴重な場として、観客から熱心な質問や上映後にロビーなどで感想を 述べる光景などを目にすることができます。

またスパイラルホールに移ってからは、スポンサーの方々の寛大な支援により、観客に無料でドリンクをサ ービスするバーも設置し、上映前後に賑わいを見せ、好評ですし、映画祭期間中の週末には「Le Grand Bal」 というパーティを開き、レズビアンやゲイ、ストレートという枠を超えて楽しめる場として評価を高めつつあります。

 今後も当映画祭は、国内外の様々なクイア文化の発進地としてますます発展していくと思います。

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