愛する者よ、列車に乗れ
Ceux qui m'aiment prendront le train
(1998年/フランス/120分)

【監督・脚本】 パトリス・シェロー
【脚本】 ダニエル・トンプソン/
      ピエール・トリヴィディック

【撮影】 エリック・ゴーティエ
【美術】 リシャール・ペドゥッツィ/
      シルヴァン・ショロヴロ

【音楽】 マッシブ・アタック/ビョーク/ P.J.ハーヴェイ/ジェフ・バックリー/シャルル・アズナブール/ニナ・シモン/リタ・ミツコ/ドアーズ/ジェイムズ・ブラウン他
【出演】 ジャン・ルイ・トランティニャン/シャルル・ベルリング/ヴァンサン・ペレーズ/パスカル・グレゴリー/シルヴァン・ジャック/ヴァレリア・ブルーニ=テデスキ/ドミニク・ブラン/ギヨーム・カネ

 以前、ダムタイプの「S/N」という作品を観た。主演ともいえる古橋悌二氏が亡くなった後だったので、代りに生前の古橋氏が演じる姿を巨大なスクリーンに映すことによって、舞台が進行していった。しかしそうすることにより、古橋氏の不在こそが強烈な存在感として舞台の上に浮かび上がるという皮肉なことが目の前で起きたのには驚き、また同時に言葉にできない感動があった。

 この映画もまた死者の不在がその存在感を強烈に浮かび上がらせている。みながその葬儀に参列する画家は映画には登場はしない。しかし、そこに出てくる人たちはみなその画家の影響下に置かれている。多くの者が肉体的にも精神的にもその画家と関係があったにも関わらず、その画家については多くを語らないし、「過去」は断片しかわからない。死んだ画家のジャン・パディストがどんな人間かは語られず、ただ彼が影響を及ぼした人々の姿が描かれていく。そして、彼らの姿を通じてその力関係が見えてきて、残された者たちの混乱と葛藤がその画家の存在の大きさを浮かび上がらせていく。

 まあなんとも複雑な人間関係を描いた映画であり、「愛憎関係図」を片手に観ないと誰が誰だかわからなくなってしまいそうですが、映画としては実に簡潔に、そして官能的に生や死、そして愛のついて、深い洞察の元に描きだしいる「究極のラブストーリー」といえるでしょう。

 共通の知人の死を契機に、その周りにいた人たちのドラマが展開される、という話は別に目新らしいものではありません。映画で言えば「裸足の伯爵夫人」や「再会の時」、最近の小説で言えば「アムステルダム」がこれに該当するでしょうか。

 HIVポジティブやトランスジェンダーなど登場してくる人々も実に様々です。しかし、彼らを過剰に「肯定的」に描く、ということはせず、むしろ自然に描くことで、その多様性が見えてくるわけです。

 脚本にパスカル・フェランと組んだピエール・トリヴィデック、撮影がアルノー・デプレシャンやオリヴィエ・アサイヤス、レオス・カラックスなどとも組んだエリック・ゴーティエなど、最近のフランス映画界を支えている若い映画作家たちのスタッフを起用している他、ビョークやマッシブ・アタックといった今を代表する音を使うなど、世代を超えた人材の起用が目を引きます。しかし、これも単なる「時代への迎合」といったものとは無縁な、実に創造的なコラボレーションといえるでしょう。

 前作「王妃マルゴ」では俳優の動かし方などに、やや「演劇臭さ」などが感じられましたが、今回は多くの登場人物が入り乱れる俳優たちも適材適所というかんじで映画監督としての資質の大きさをかいま見せています。

                
(北条貴志)

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