ゴールデン・ボーイ APT PUPIL (1997年/アメリカ/112分)

【監督】 ブライアン・シンガー
【脚本】 ブランドン・ボイス
【原作】 スティーヴン・キング
【撮影】 ニュートン・トーマス・シーゲル
【美術】 リチャード・フーヴァー
【音楽】 ジョン・オットマン
【製作】 ジェーン・ハンシャー/ドン・マーフィー/ブライアン・シンガー
【出演】 ブラッド・レンフロ/イアン・マッケラン/ブルース・デイヴィソン/デヴィッド・シュワイマー/エリアス・コーティアス

注記:この文章は完全にネタバレですので、未見の方は読まないように。

 ブライアン・シンガーの新作!ということで期待したのですが、正直言っていま一つでしたね。

 つまらない、という言い方は語弊があるかもしれません。ある程度の面白さというのをこの映画は持っています。でも焦点のしまらないピンボケ映画、もしくは外見はそこそこ整っているけど、中身はボロの「欠陥住宅」というとこでしょうか。

 ナチスのユダヤ人虐殺に興味を持つ高校生トッドは、元ナチス親衛隊の将校で、今は名を変え隠れて生活をしているアーサーと知り合う。最初は否定していたアーサーも、決定的な証拠を突きつけられ、正体を白状した。そしてトッドは、正体を暴露しない代わりに、強制収容所の話を強要する。それはトッドとアーサーの心に潜む”狂気”の目覚めになった…。

 この映画は脚本というか設定に無理がありますね。
 なんでFBIが何十年も捜査して見つからないような戦犯が、そう易々と近所の高校生に発見されるのか、とか、後半アーサーが病院にかつぎこまれた時、なんで都合よく隣のベッドに、アーサーが昔高官を務めていた強制収容所に幽閉されていたユダヤ人男性が入院しているのか、とか、最後に真相を知った進路カウンセラー教師がゲイであるということでトッドに恐喝されるのですが、なんで彼がゲイだということが突然わかったのか、など、設定があまりにも都合がよすぎて、なんじゃそりゃ一体、と思わず突っ込みを入れたくなります。

 しかし、そうした納得のいかない設定が山盛りでありながらも、サスペンス映画としてはソコソコの力は発揮していますし、シンガーの演出力はある程度評価はできるでしょう。ですが、それが映画全体の面白さには全然繋がっていません。

 またこの映画には前述の高校の進路カウンセラーにしろ、家に招かれ殺されてしまうホームレス男性にしろ、ゲイの登場人物が作劇のキーポイントになりますし、不必要なくらいに長い男子更衣室でのシャワーシーン、さらに主人公2人の関係も同性愛的な雰囲気が異様に濃厚です。

 監督のブライアン・シンガーはゲイとしてカミングアウトしていますし、来日した時には2丁目に出没したそうです。思えば出世作「ユージュアル・サスペクツ」からして男同士の「集団愛憎劇」と深読みできる内容でしたから、まあ不思議ではありません。この映画もまた主人公2人のSMチックな『恋愛力学』について描いた作品と言っても過言ではないと思います。

 しかし、それにしては異様にホモフォビア(ホモ嫌い)な雰囲気が濃厚なのはなぜでしょう。別にゲイを否定的に描いたからど〜たら、というわけではないのですが、映画全般が何かゲイに対する憎悪のようなものを感じさせるのです。はっきりいって観ていて不愉快ですね。

 ブラッド・レンフロが東京国際映画祭で男優賞を取ったらしいのですが、まあこれは悪い冗談でしょう。あんな芝居の出来ない男の子にそういう賞を与えるなんて、審査員のみなさまはきっと嫌味が好きな人たちばかりだったのでしょう。それに反しイアン・マッケランの圧倒的な存在感は、吹いたら飛んでしまうようなこの映画に重みを加えています。彼の存在がなかったら、この映画は相当なおマヌケ映画になっていたことでしょう。

                
(北条貴志)

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