街外れ L'Arriere Pays
(1998年/フランス/90分)

【脚本・監督】 ジャック・ノロ
【撮影】 アニエス・ゴダール
【製作】 パスカル・ラマーニ
【出演】 ジャック・ノロ/アンリ・ガルデ/
      アリエット・サンペ/マチルド・モネ

 日仏学院で始まった「カイエ・デュ・シネマ」週間で上映された作品。監督はアンドレ・テシネの作品に出演したり脚本を書いているジャック・ノロで、これが彼の監督処女作。1998年のカンヌ映画祭でも上映されました。

 ノロ演じる端役専門の俳優ジャックは、母の臨終に立ち合うたに、10年ぶりに故郷の村へ帰る。父親は床屋で自分の老後の生活の為に息子を信じるが、妻の病は信じられず医者のせいにする。ジャックは親戚を尋ね、親交を暖めるたりするが、母の死後、父が本当の父親でないことを知らされる・・・・。

 病人を軸に家族の関係を描く、というとイングマル・ベルイマンの「叫びとささやき」なんかを想起させるのですが、ああした演劇的、というか視覚に訴えた描写とは程遠く、殆ど「リアリズム」か、と思えるほど禁欲的な作りになっています。劇的な盛り上げ方は一切せず、淡々と登場人物の心理描写に徹していて、一種の厳格さを感じさせますが、やや単調という気も。演出のタッチはブリュノ・デゥモン監督の「ジーザスの日々(日本では横浜フランス映画祭とぴあフィルムフェスティバルでのみ上映。正式公開望む!)」に近いものを感じましたが、映画としては「ジーザスの日々」の方が圧倒的に上です。

 この映画は主に家族の関係などを主軸としているのですが、もう一つ同性愛というのも重要な点です。テシネの「野性の葦」「深夜カフェのピエール」「夜の子供たち」といった作品も同性愛は重要な題材として表われますが、この「街外れ」でも主人公はゲイであると描写されています。

 映画終了後、「カイエ・デュ・シネマ」のティエリー・ジュス氏と映画評論家で「カイエ・デュ・シネマ・ジャポン」の梅本洋一さんの対談・質疑応答があり、「テシネとノロの映画における同性愛描写の違いはなにか?」という僕の問いに対し、ジュス氏は「テシネに較べるとノロの方がより直接的な表現をしてるのでは」と答えてくださいました(本当はもっと長く丁寧に両者の映画の比較をしてくださったのですが、細かい点を忘れてしまったのです。ゴメンナサイ)。

 ただ僕から言えば、そうした描写が成功しているとは思えません(ジュス氏もあまり好きではない、とおっしゃってましたが)。少年時代にフラッシュバックして、ラグビー選手たちや闘牛士の下半身部分のどアップのシーンなどが挿入されるのですが、あまりにも露骨で観ていて馬鹿馬鹿しくなってしまいました。テシネの方が同性愛描写と心理描写をうまく絡めて、作劇として巧みに捉えていたと思います。

 またバーで知り合った男とトイレでセックスをする(と暗示させる)描写なども、あまりにも直接的すぎてかえって観客の想像力に働きかけない結果となってしまったようです。類似した描写ならテオ・アンゲロプロスの「霧の中の風景」にもありましたが、アンゲロプロスの方が簡潔に描いているぶん、よりイメージ豊かに捉えていたと思います。まあアンゲロプロスと較べるのは酷かもしれませんが。

1998/12/4   飯田橋・日仏学院にて

(北条貴志)

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