太陽と月に背いて TOTAL ECLIPSE
(1995年/イギリス/112分)

【監督】 アニエスカ・ホランド
【脚本】 クリストファー・ハンプトン
【撮影】 ヨルゴス・アルバニティス
【音楽】 ヤン・A・P・カズマクレ
【美術】 ダン・ウエイル 
【出演】 レオナルド・ディカプリオ/デヴィッド・シューリス/ロマーヌ・ボーランジェ

 偉大な芸術家を扱った映画が、即偉大な映画になる、という法則など存在しないのだから、アルチュール・ランボーとポール・ヴェルレーヌの恋愛関係に焦点を当てた映画「太陽と月に背いて」が傑作でないとしても何ら不思議ではない。しかし、「ヨーロッパ・ヨーロッパ」のアニエスカ・ホランド監督、「危険な関係」「キャリントン」のクリストファー・ハンプトンが脚本、そしてテオ・アンゲロプロスの撮影で知られるヨルゴス・アルバニティスという、いわばヨーロッパ映画界を代表する面々が集まり、19世紀フランスの象徴派詩人を題材に扱ったといえば、期待を抱くのもしかたないことだが、結果は無残なものになってしまったようだ。

 今までも著名な芸術家の生涯を題材とし、彼らの恋愛、私生活、創造の葛藤などを描いた映画は数多く存在した。しかし、その大半が芸術家とはエキセントリックで奇行の持ち主という紋切型から逃れられなかったが、この「太陽と月に背いて」もまた例外ではなかったようだ。ここには、芸術家の葛藤も人間が衝突して生みだすドラマもなにもない。ただあるのはグロテスクなまでに強調される変人芸術家の姿であって、ステレオタイプの芸術家像をただ退屈になぞっているだけにすぎない。

 デヴィッド・シューリスが執拗に奇人ぶりを熱演し、レオナルド・ディカプリオはそのシューリスの芝居を巧みに受けつつ、不良詩人の姿を奔放に演じ、スリリングな演技の掛け合いをみせる。しかし、そうした熱演も熱くなればなるほど、よけいに映画の空虚さが露呈し、醜悪なさまをみせていく。ホランド監督も「僕を愛した国 ヨーロッパ・ヨーロッパ」ほどの力強いドラマは生みだせず、「アレクサンダー大王」であれほど壮麗で陰影の富んだ映像を生みだしたヨルゴス・アルバニティスもここでは弱々しく見える。

 最後、北アフリカを彷徨い、病に倒れるランボー。ここに表われる薄っぺらで紋切型のアラブ観はうんざりさせられるし、カメラが青空と紺碧の海を映しつつ、「地獄の季節」の一節を引用するのはゴダールの「気狂いピエロ」の引用なのかもしれないが、比較の対象にすらならない。

(北条貴志)

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