■ ハピネス
「幾多の不幸をやり過ごし,今日も生きてゆくのさ」
少年愛は悲しい。自分の性欲を満たすためには犯罪を犯さねばならないのだから。マ
イノリティの人権が認められはじめてきた現代においても,少年愛や露出,痴漢など
,少々マージナルな性欲を持つ人々に対して,世間は厳しい。“気持ち悪〜い”という反応が,一貫した世論を形成してしまっている感がある。しかし私は,数年前に「
児童ポルノ禁止法案」に関する集会にて“被写体が実在する写
真について禁止するのはしょうがないが,被害者のいないマンガまで禁止しないでくれ”との悲痛な訴えを彼らがしているのを見て,認識を新たにしたのであった。少年愛は“気持ち悪い人でなし”などではなく,きっと多くは悲哀を背負ったいい人たちなのかもしれない。
この「ハピネス」に登場する精神科医のビルも,そんな悲しい少年愛な人間の1人である。彼は,妻と幸せな家庭を築き,子どもにも慕われている理想的なマイホームパ
パである。ほんとにいい人なのだ。私がすばらしいと思ったのは,思春期を迎えた息子ビリーとのやり取り。息子に射精について尋ねられ,何もごまかすこともなく率直に息子の悩みを受け止め励ます父親の対応は,まさにパーフェクトとしか言いようが
ない。“大丈夫,いつかイケるさ You'll come, one day.”
しかしこんなすばらしいお父さんのただ1つ困った点が,少年愛であった。こんな立派な人間が息子の友人2人をレイプするまでに至るというのは,想像を絶する内的な衝動があったのであろう。見上げたことに,レイプについても息子と率直に話し合う
。この会話がまた感動的である。“いや 犯したんだ”“どんな感じがした”“…
すばらしかった”“ボクを犯したいと思う?”“いや オナニーで我慢する”(泣)
ただいくら止められない衝動とは言っても,悲しいことに,近代社会においては他者の人権を侵害すると,やはりそれは犯罪である。悲哀だ。こうして立派なお父さんは警察に連れて行かれるのであった。
この少年愛のエピソードは突出したものであるが,その他にも,イタ電&オナニーが日課の男,マイナス思考で不幸を引き寄せる結婚できない女,小説のためにレイプされたいと願う小説家の女,など都会的な寂しさが漂う登場人物のエピソードが散りばめられていく。レイプされてから,その犯人を殺してしまい,バラバラにして少しずつ捨てている肥満女は,一部のゲイにおおウケだった殺人主婦ドラマ「OUT」も真っ青である。
ただこの映画のうまいところは,これだけの生々しい不幸がてんこ盛りなのに,じっとりとした暗さがあんまり感じられないところである。概してみんな,突然の不幸にも誰かのサポートを得て何とかやり過ごしていくのである。淡いけれどさりげなく暖かい都会的な人間関係を感じた。それぞれの孤独や不幸を背負いながら,みんな自分なりにがんばって生きているのである。そんな現代的でアーバンなテイストは人気の海外ドラマ「アリー・マイ・ラブ」にも通
じるところがある。“幸せ探し”系の歌が 時々挿入されるところも似ている。
ビデオ屋さんはこの映画を“ブラック・風刺”のジャンルのシールを貼っていたけれど,う〜ん,これって私はシリアスなヒューマン・ドラマだと思っているのですが…
。そして,こんなに人間の悲哀に満ちた映画「ハピネス」は,やっぱりアーバンなも
ので,息子ビリーの“精通”によって,めでたくハッピーエンド(!)を迎えるのだ
った。I...I came !
(川波 歩)
ハピネス オフィシャルホームページ
アメリカ http://www.happinessthemovie.com/
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