映画「猥褻行為〜キューバ同性愛者強制収容所」上映に寄せて  
〜同性愛者とふたつの革命、そして革命なき国・日本〜
 (2001/7/1)

チームS・シェイダさん救援グループ

1959年、中米の国キューバで、一つの革命が起こった。  
20年後の1979年、中東の国イランで、もう一つの革命が起こった。  
二つの革命は、その国で生きる二人のゲイの運命を、大きく変えた。  

一人はキューバの作家レイナルド・アレナスだ。貧しい農村で生まれたアレナスが15歳のとき、革命が起きる。彼は解放に胸をときめかせてカストロ支持のゲリラ組織に参加し、1960年代には作家としてデビュー。その一方で、彼は自分がゲイであることを早くから自覚していた。  
彼はラテン・アメリカ文学の旗手として海外でもてはやされたが、国内では不遇だった。さらに、当時のカストロ政権の反ゲイ性・マッチョ性*1に反発した彼は次第に反体制的な表現に傾斜するようになっていく。それは折しも、カストロ政権が詩人パディージャに自己批判を強要するなど、国内の主要作家に対する攻撃を開始した時期と重なっていた。同性愛者であり、反体制作家であることを理由として、アレナスは1973年に逮捕され、刑務所や再教育センターに収容され、さまざまな屈辱を受ける。 彼は76年には釈放されるが、結局1980年に難民船に乗ってキューバを逃れ、アメリカ合衆国にわたることになるのである。しかし、アメリカは彼にとって、「魂のない国 」だった。HIVに感染した彼は、孤立して、90年に孤独な自死を遂げる*2。  

イランに生を受けたもう一人のゲイの人生も、アレナスと同じくらい過酷であり波乱に富んでいる。
彼は16歳で、革命に遭遇した。その前に、彼は同性のパートナーを持っていた。幼なじみだった。腐敗した帝政を打倒し、解放のカタルシスを得るために、彼はパートナーとともに、小さな左翼組織の一員として、革命に参加する。彼が左翼組織に参加したのは、そこが唯一、因習的で反ゲイ的な日常社会と距離をおいた場所だったからだ。しかし、革命から2年後、その成果 はすべてイスラム聖職者たちに横領される。苛烈な権力闘争の末、革命の指導者ホメイニー師は革命の最終形態として「イスラム法学者の監督権」理論に基づくイスラム聖職者による専制体制を打ち立てる。彼の参加していた党は弾圧によって壊滅し、亡命組織となる。同性愛者は、「同性愛は最も厳しく罰せられるべき罪」との聖職者の見解のもと、つぎつぎにイラン各所で逮捕さ れ、革命裁判所で裁かれた後、最初は銃殺刑に、後に石打ち刑に処されることとなった*3。パートナーはヨーロッパに脱出した。自分が同性愛者であることを家族に知られたら、不名誉を恐れるしきたりによって殺されるだろう。それとも革命防衛隊に密告されるかも知れない。そんな息詰まる生活から逃れ、同性愛者として自由を得るために、彼は1991年、一つの決意をした。「体制が変わらない限り、もう祖国には帰ら ない」彼は、国際的に孤立するイランと西側の唯一のパイプであった日本行きの飛行機に乗り込んだ。  

10年後、彼は同性愛者として、難民の認定と在留権を求め、裁判を行っている。彼の相手は、世界で最も閉鎖的な難民政策を続ける日本の法務省だ*4。彼は、この1年と2か月の間、閉じ込められ続けている。最初は東京・北区にある入国管理局の「収容場」に、そして次は、茨城県牛久の「入国者収容所」に。入国管理局の収容場は、 彼が同性愛者であることに「配慮」して、彼を独房に押し込めた。  
キューバとイラン、二つの革命。いずれも、解放と新しい国づくりという理念のも とで、同性愛者を強制的に収容し、あるいは虐殺するという最悪の結果 に行き着いた 。一方、「革命」をもたない私たちの国、日本は、程度の差こそあれ、そこから逃れて来た外国人同性愛者を強制的に収容し、異性愛者に対するよりも悪い条件を課して いる。何の理念も、信念もなく、ただ楽に管理するだけのために。  

レズビアン&ゲイ映画祭で、同性愛者を閉じ込めるキューバの強制収容所について描いた映画「猥褻行為〜キューバ同性愛者強制収容所」(ネストール・アルメンドロ ス監督)が上映されるという。世界の多くの国々の同性愛者の苦難に想像力を巡らせながら、私たちは私たちの国・日本にも、目を向けなければならないだろう。彼、イ ランから来たシェイダさんを、アレナスのように孤立させないために、日本を「魂のない国」にしないために。彼の在留権裁判、次の口頭弁論は7月3日、午前11時から 、場所は霞ヶ関の東京地裁606号法廷だ。

<シェイダさん在留権裁判 第5回口頭弁論>
日時 2001年7月3日(火)11時〜11時30分      
場所 東京地方裁判所 第606号法廷
(営団地下鉄霞ヶ関駅下車3分)
<第5回口頭弁論報告集会>
日時:2001年7月3日(火)11時30分〜13時
場所 弁護士会館5F502F号室(東京地方裁判所裏) 

*1:1970年代までのキューバ共和国の同性愛者政策は基本的に男性同性愛者のみを対象としており、実際の性的指向についてではなく、ステレオタイプな「男」としてのふるまいが可能かどうかを基準に行われていたといわれる。たとえば「男はマッチョ たるべき」とする公教育政策のなかで、ステレオタイプな男性を演じられない男子生徒は同性愛者として特殊学級に入れられ、戦争ごっこや男性的なスポーツを強制され た。それでも「矯正」されない場合、擁護学校や再教育キャンプに収容されたといわれる。これらの政策は、教育行政の見直しの中で問題となり、1980年代には撤廃され た。しかし今度は保健行政において、悪名高いAIDS患者・HIV感染者の強制収容政策 が開始されることになる。(Marvin Leiner, Sexual Politics in cuba, (Boulder, Westview Press, 1994)

*2:レイナルド・アレナスは自伝「夜になる前に」(安藤哲行訳、国書刊行会)に自分の半生をまとめている。

*3:亡命イラン人同性愛者の人権団体「ホーマン」によれば、80年代を通 じて4000人 以上の同性愛者が処刑されたり、虐殺されたりしたという。イラン革命期の同性愛者への処刑などについては、ロイター通 信が個別のケースについて細かく報道している。

*4:欧米やニュージーランド・オーストラリアなどはどこも年間数百〜数千におよぶ難民を受け入れ、先進国としての責任を果 たしているが、日本は年間数百人の難民申請に対して、1人〜十数人の難民しか受け入れていない。

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