queer de pon
 

ゴッド・アンド・モンスター Gods and Monsters (1998)

監督・脚本:ビル・コンドン  
出演:イアン・マッケラン、ブレンダン・フレイザー、リン・レッドグレーヴ、ロリータ・ダヴィドヴィッチ

「フランケンシュタインの花嫁」(1935)などで知られる映画監督ジェイムズ・ホエールの晩年の姿を描き、アカデミー最優秀脚本賞他多くの賞を受賞した作品がついに公開されます。引退した映画監督ホエールの元に若く屈強な庭師がやってきたことで、 長い間眠っていた感情が目覚めていく…。イアン・マッケラン、ブレンダン・フレイザー、リン・レッドグレ−ヴらの演技のアンサンブルが見事。
アカデミー賞脚色賞受賞。

日本配給:GAGA 銀座テアトルシネマにて、12月23日よりレイトショー公開
オフィシャル・ホームページ 
日本 http://www.nifty.com/fmovie/GM/index.html
アメリカ  http://www.godsandmonsters.net/


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芸術家を描いた映画によく見られるのが、彼らの変わった性格や行動などを誇張し、あたかも芸術家とは一般 の人々とは異なる性格をしているからこそ、常人には発揮できぬ 才能を持ちうる、とでも言わんばかりに描くことだ。しかし、実在の映画監督ジェイムズ・ホエールの晩年の姿を描いたこの作品では、そうした卑しい俗っぽさは見られない。むしろ、時代の流れに取り残された人間の内面 を深く掘り下げ、記憶の奥底に眠っていた感情の目覚めを丹念に、そして優雅に描いていく。

またこの映画は 、創作物と作り手の関係が多義的に捉えられている。ホエールにまとわりつく映画オタクの青年を始め、彼がパーティに招いた「怪物たち」、そしてジョージ・キューカーなど、彼の周りには常に過去の作品と映画監督時代の栄光がまとわりつき、関連づけられて語られ、「伝説」だけが一人歩きしていく。しかし、そうした伝説とは遠く離れた所で、作り手本人は生きている。こうしたギャップの中にある孤独感が痛々しく描かれ、人生の侘びしさのようなものがにじんでくる。

最後、庭師は自分の子供にかつて主事していた監督の作品を観せる。このようにして、作品は作り手を離れ、時代を超えて多くの人に観られ、語られていく。しかし、作り手本人を知る者は少なく、時代と共に消えていく。この映画はただ単にある一人の芸術家の晩年を描いただけではない。むしろ、芸術家と芸術作品の親密でありながらも、同時に孤独な関係を描きだしていったのだと思う。同じく映画界を引退した孤 独な女優を描いた傑作「サンセット大通り」と、あるシーンがオーバーラップしていくのも単なる偶然ではないだろう。

(北条貴志)


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「我々はこの映画を、お金のためでも名誉のためでもなく、愛情から創りました」
イアン・マッケランはインディペンデント・スピリッツ・アワードの受賞スピーチでこう語った。本当に隅々まで創り手の愛情に満ちた作品である。ホエールへの尊敬からこの脚本を練り上げ監督したビル・コンドン、製作総指揮として大きく寄与したクライヴ・バーカー、そしてコンドンの熱意に触れ、ホエールという役柄に惹かれて参加したマッケラン、彼に引かれるように集まったリンとブレンダン。たった三週間の撮影、限られた資金で、カットのひとつひとつや小道具に至るまでこれほど丁寧に作り込まれた作品はそうそうないだろう。

実に多面的な作品である。細かく織られた錦が光によって違う色を見せるように、美しく造形された彫刻が角度によって様々な表情を見せるように、この作品は見るものの視点でさまざまに受け止めることができる懐の深さを持っている。それぞれの視点で、それぞれに何かを感じて欲しい。そして、クレイトン・ブーンがホエールとの出会いで変わったように、新しい何かを得て帰って欲しい。

(たけうちみか)『ゴッド・アンド・モンスター』日本公開推進委員会代表
玉石混淆(たけうちさんのホームページ) http://www02.u-page.so-net.ne.jp/ka2/take-m/


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古いB級ホラーをそのままの形で作り直すなんて映画青年の見る典型的な夢の一つだったりするわけで、そういう意味じゃきっとこの映画は作り手に愛されながら作られたことは想像に難くない。けれどそれだけじゃいい作品にはならないところに、一 本の筋を通す役割を果たしたのがイアン・マッケラン爺の演技。すっかり枯れているようでいて、時として驚くほど生臭い(老ゲイ独特の?)雰囲気を醸し出す表情と物腰がほんとにスゴイ。 彼のこの演技がなければ、この映画はおそらくシーン毎ばらばらに空中分解していたに違いない。そして彼が作り上げたテンションが画面 全体の密度をも高めていき、ラスト近くでの「ガスマスクの死闘」へと昇華する。これが圧巻。  

個人的にはこの映画、脚本が向いている方向、演出が向いている方向、役者が向いている方向、何だかちぐはぐなように見えるのに、結果 的にそれが有機的に組み合わさってものすごいパワーを生み出してしまった映画、という気がする。タイトルの「Gods and Monsters」というのは勿論フランケンシュタイン博士と彼が作り出した怪物のことであり、もしかすると老いたゲイ映画監督と若く逞しいノンケ庭師のことであるわけだが、おそらくは作り手も意識していないところで、この作品はもう一つの例を提示している。それは「映画の作り手と映画そのもの」。この組み合わせもまた、ほかのニ例と同じく、「どっちがGodでどっち がMonsterなのか」考えずにはいられない。

(ochitaro)
ochitaro does reboot(ochitaroさんホームページ) http://www.ochitaro.com/


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(2000/12/19更新)
 
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