【初めてスクリーンに映し出される、「男のペニスをくわえる男」!】

M● ねぇねぇ、ハスラー・アキラがドラッグ・ディーラー(麻薬の売人)をフェラチオするシーンがあるじゃない。おそらく日本では単館ロードショーとはいえメジャーな映画館のスクリーンに、男が男のチンチンくわえるシーンが映し出されるのって 、これが初めてじゃないかしら。どういうワケだか、わりとよく見えるのよねぇ。モザイク、ここだけ薄くしてない?(笑)  「ポルノ」って言葉につられて見に来たノ ンケ男達はどう思うんだろうね。ま、それが狙いなんだろうけど……。それこそ「変態野郎〜っ!」って怒り出すかもね(笑)。  
ところで、「クィア・ムーヴィー」の「クィア」って、「変態」とか「奇妙な」という意味の言葉よね。きっと日本人にはこの言葉、耳慣れないと感じる人も多いと思 うわ。
S● 確かに日本人にとって、「クィア」という言葉は理解しにくい言葉かもしれない。「クィア」は本来、例えば黒人に対する差別 用語の「ニグロ」みたいにあまり良い意味の言葉ではなかった。ところが、黒人達はあえて自分たちを「ニグロ」と呼び始め、そして、その意味を再定義して、肯定的な文脈の中で使い、その言葉を自分たちのパワーにした。  
「クィア」という言葉も、30年代や40年代には悪い意味であったけれど、それが80年代・90年代に入って、違う意味合いを付与されるようになってきた。私は「ポルノ 」という言葉にも同じことがいえると思っているんだけど……。
M● そうね、「クィア」という言葉が、いわゆる“思想”の中で使われるようになったのは80年代のことだったわ。シューリーは「クィア」って言葉をどういう風に使っているの?
S● 私が過去に手がけたグッケンハイム美術館でのプロジェクトで『ブレンドン』 というのがあるのだけれど、トランス・セクシュアル(*この場合は「セクシュアリティを超越した」という意味)なコミュニティのことを表現したものなの。かつてサンフランシスコで起きた、MTFの人がレズビアン・バーに入ろうとして入店を拒否された出来事に着想して作った作品。女性なり、ゲイやレズビアンなりが、自分と同じ人間だけの居心地の良い場所を求める気持ちはわかる。けれど、それぞれが互いを理解をし合い、ミックスされた空間も大切だと言いたかったから……。  
ゲイやレズビアンの人達の中には、セクシュアリティをある一定の枠内におさめようとする傾向が強い人がいる。けれど私は人間を、男とか女、ゲイとかレズビアンとか、バイセクシュアルとかといったカテゴリーに分類したいと思わない。そんなときに私は「クィア」という表現をする。もし、自分のセクシュアリティについて語る場 合、「私はクィアなの」と言えばニュートラルな位置にいることが出来るでしょ。
M● そうね、アタシにもこういう経験があるわ。こんな筋金入りの大オカマだけど 、最近、ある女性を好きになったことがあるの。そしたら、自分の中で築き上げてきたゲイとしてのアイデンティティが、いとも容易く揺らいでしまったの。ショックだったわ(笑)。オマケにゲイの友人からは「女を好きになるなんて変態だ!」って、からかわれるし……(笑)。その時、あらためて「ゲイ」というアイデンティティと 「クィア」であることについて考えさせられたわ。

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