interviews
 【次回作は、全編「射精」の映画を撮るつもり。】

M● 『I.K.U.』を見て、個人のセックスをコントロールしようとする権力への批判が込められているように思ったんだけど……。
S● 社会で生きている限りは、個人は社会にコントロールされてしまうもの。私は 、多数派による制度や権力が私たちの生をコントロールしていると認識している。だからこそ、インディペンデントとして、オルタナティヴ・カルチャーを作り続けて行かねばならないと思っているの。私は今までも作品を通 して「一体誰が陰で私たちを操っているのか」、「誰が権力を持っているのか」という問題提起してきた。そうした社会にあっても、私は「個」でありたいと願っているから。性行動に関しても、マ ジョリティからしてみれば、「ゲイ」「レズビアン」はオルタナティヴな生の様式で しょ。
M● 社会はつねに「個」の“セックス”を取り締まることで成り立っているからね 。だから「クィア」であることは、社会にとって非常な脅威になる。“セックス”っ て、やっぱ、大切よねぇ……(笑)。
S● 私の映画の中では、レプリカント達はそれぞれのセックスを楽しんでいるでし ょ(笑)。
M● ところでシューリーは、もう次のプロジェクトに取りかかっているんでしょ ? 次回作はどんな感じ?
S● 実は、『I.K.U.』には満足できてない点があるの。だって「射精」のシーンが 描けなかったんだもの!(笑) 男にしても女にしても、そのオーガズムの瞬間は美しいもの。だけど、日本ではペニスやヴァギナはダメでしょ。それが描けなかったのが悔しかった。だから次回作はセックスに対して自由な国、デンマークで作ることにしたの(笑)。ランス・フォン・トリアーからハードコアな映画を撮ってみないかという申し出があったから……。
M● ランス・フォン・トリアーって、『ダンサー・フロム・ダンス』のプロダクションね。シナリオはもう出来ているの?
S● シナリオはもう書けてる。『I.K.U.』と同じく近未来が舞台で、全編、完璧な射精の話(笑)。20世紀末にエイズの脅威が起こったけれど、その後、政府がエイズ ・ウィルスを使って実験・研究を繰り返していくうちに突然変異を起こしてしまう。 それに対応するかのように新しい人種が生まれてくる。人々は“High Cum”といって 、射精によって(麻薬を使ったみたいに)ハイになれるという設定。
M● じゃ、射精シーンがバンバン出てくるのね。ザーメンまみれの映画なのね、ステキねぇ(笑)。
S● ある意味、プリ・エイズの時代、つまり体液を交換しても大丈夫だったおおらかなセックスの時代。ゲイのパブリック・セックスが盛んであった古き良き時代へのオマージュなの。
M● 絶対に観るわぁ!(笑)
S● それじゃ、マーガレット、記事にこう書いていておいてよ。次回作の良いプロモーションになるはずだから。「『I.K.U.』のインタビューでシューリー・チェン に会って気づいたことだが、シューリーはレズビアンじゃないわ! 彼女はゲイだったのよ!」って(笑)。

インタビューが終わると、シューリーはふたたびPowerBook G3の入ったリュック を軽々と担ぎ、すたすたと歩き出した。次のミーティングへ行かねばならないのだという。ひさしぶりの東京ナイト・クラビングに誘おうと考えていたのだが、それならばと翌日の予定を訪ねてみた。「ごめんなさい、マ・ガレット! 明日からロンドンに行って、それからパリなの。」相変わらず世界中を飛び回ってるようだ。……まっ たくシューリーらしい身の軽さだ。

back iku home