「セルフパロディとしてのマドンナ『MUSIC』」
先日、発売されたマドンナのニューアルバム「MUSIC」(2000)は、ビルボードアルバムチャートでは、「LIKE
A PRAYER」(1989)以来11年ぶりの1位。シングルチャートでも4週連続1位
を記録し、彼女にとって、12曲目の全米No1ヒットとなり、全世界で、記録的なセールスを記録しているようだ。マドンナの新曲というと、毎回、作られるミュージッククリップも話題を呼ぶわけだけど、今回もなかなか面
白い仕上がりになっている。馬鹿でかいリムジンに乗ったカウボーイスタイルのマドンナが、夜の街で暴れまわるという、ノリのいいビデオなんだけれど、実は、マドンナの今までのミュージックビデオをリメイク的内容なのだ。
話の展開として、運転手兼DJとマドンナ扮する女主人とのバトルが繰り広げられるのだけれど、この組み合わせは、A・ウォーホルのファクトリーを意識した「DEEPER
AND DEEPER」(1993)ですでに登場済み。「MUSIC」ビデオのロング・ヴァージョンで、運転手が歌い出す「LIKE
A VIRGIN」(1984)を、マドンナが「やめてちょうだい!」と やめさせるおかしいシーンがあるんだけれど、これが、「パロディなんだよ」と種明かしになってるわけ。
曲名からして「MUSIC」というぐらいだから、数々のクラブヒットを持っているマド
ンナさんの集大性になってるのでは、ということで考えていくと、クラブ(ディスコ)が舞台という点では、最初期の「EVERYBODY」(1983)で、マドンナが踊りまくっていたシーンを思い出す。たいだい、このビデオは、MTVアワードで5部門を独占した大ヒットクラブチューン「RAY
OF LIGHT」ビデオ(1998)を監督したJONAS AKERLUNDの 手によるものだ。マドンナの脇に座っている女性は、マドンナのライブのバックシンガーで、「VOGUE」(1990)や「IN
BED WITH MADONNA」(1991)に出演しているNIKI HARIS。 また、車に乗ったマドンナという点では、「BURNING
UP」(1983)を思い出す。このビデオは、舗道で身悶えしているマドンナに向かって男が車で向かってくるんだけど、
いつの間にか、車を運転しているのはマドンナになっているという内容。今回は、男勝りなマドンナが座席に陣取ってるんだから、「出世したよな」なんて思ってみたり
。マドンナの脇を固めるもう1人の女性は、おそらくDEBI MAZER。もともとはマドンナのメイクを担当していた人で、スパイク・リーの映画にも出演している女優さん。
彼女は、ショーン・ペンが、結婚当時、マドンナに贈ったクラシックカーが登場する
「TRUE BLUE」(1986)ビデオのコーラス・ガールの1人として、登場している。
「これじゃ、ほとんど、こじつけじゃないか」と思われるかもしれないけれど、マドンナがいきなりカンフーをやりはじめるアニメのシーンは、主演映画「WHO'S
THAT GIRL」(1987)のオープニング・アニメを思い出さずにはいられないし、カウボーイ・
スタイルについては、何だか、ロンドンのゲイシーンで流行してるらしいけれど、男性社会の象徴としてのカウボーイの衣装(今回のアルバムジャケットを含めて)をマドンナが着てるという皮肉として受け取ることもできて、スーツを着て、権力者に扮した「EXPRESS
YOURSELF」(1989)が思い浮かぶ。おかしいのは、ラストのリムジンの
ナンバープレートに書かれた「MUFF DADDY」の文字。これは、明らかにパフ・ダディのギャングみたいな私生活を小馬鹿にしてるわけだけど、実は、マドンナさん、今年初頭、彼の恋人ジェニファー・ロペスに喧嘩を売ったことを思い出したりして。
このビデオを製作するにあたって、マドンナが、妊娠5ヵ月で、あまり身体を動かせなかったという事情があるわけなんだけど、そういう事情を逆手にとった形で、こんなに深読みできるビデオを作ってしまうマドンナには、やっぱり敬服してしまう。次のビデオにも期待が高まります。
(michi-ta)
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