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「キュルルンから所帯感へ」 >シネマデータ
written by 川波 歩

「ハッシュ!」を観てから、結構時間が経ってしまったあとにこの作文を頼まれたので、正直、あんまり細かいことを憶えてなくてちょっと困ってしまった。そこで橋口監督の前作「渚のシンドバッド」も観てから比べてみようということに。

「渚のシンドバッド」は個人的にはいろんな意味でググっと感覚に迫ってくる映画でした。ある地方都市のごく普通の高校でのひと夏のドラマ。ノンケ男に片想いする岡田義徳くんは情けなさそうに見えて意外と自分をしっかり持ってるし、深刻な事情で転校してきた浜崎あゆみは、今にも壊れそうな微妙な感性をしっかり持ちながら体当たりで生きてる。岡田くんに片想いされるモテ系男子の草野康太は、誰にも優しく大人びたふりして意外と情けなかったりする。
この3人の微妙な関係から感じられる多感な10代の不器用で一生懸命な感じに胸がキュルルンとした。誰でも自分の10代の頃を思い出してセンチメンタルな気持ちになるのではないだろうか。ミーハー的観点からも、有名になる前の2人のギャル教祖、浜崎あゆみと安西ひろこが教室の中でバトルを繰り広げたりとなかなかレアな映像である。しかも私はたまたま橋口監督と同郷で、映画の中にはややなじみのある風景もいくつか出てきたので「あ、あのロープウェイにAYU様がっ」ってキャアキャア言っちゃった。

ところで一方の「ハッシュ!」は、全然違った雰囲気である。これは甘酸っぱいキュルルン映画じゃない。生活感ただよう現実映画である。勝裕(田辺誠一)と直也(高橋和也)のカップルはおおむね安定期でフレッシュなドキドキなんてナシ。教室での生徒たちのおしゃべりの代わりに、現実生活の最たるものとも言うべき「やっかいな親戚付き合い」なんか出てくる。登場する恋愛エピソードなんて、永田エミ(つぐみ)のゲンナリするようなストーキングとか。迫ってくるのはあくまでリアルな現実生活である。

まだ世間を知らず、みずみずしい感性を持った10代は、何か素晴らしい恋愛や友情があるんだと信じて、懸命に生きようとするもの。でも「ハッシュ!」では、大人になった橋口監督が「うんざりすることもやっかいなことも何とかしながら生きてくのが人生さ」って言っているかのようだ。映像的にも、長崎の片田舎のきれいな青空と海がまっすぐな高校生の心象をあらわしているかのような「渚のシンドバッド」に対して、「ハッシュ!」は全体的にやや暗めだったり曇っていたりという印象で、ややこしい現実生活を思わせる。

「ハッシュ!」については普通とはちょっと変わった子作りのことが宣伝されがちだけど、私はその部分はそれほどどうとも思わなかった。精子バンクやら代理母やら生殖医療花盛りの現代、そのくらいの子作りはワンノブゼム。今の生殖医療なんて、無精子症の男の人の睾丸を切り取って無理やり精子をほじくり出したりするのだから。スポイトどころの騒ぎじゃないでしょ? まぁこの映画では、子作りそのものよりも、人生を新たな方向に踏み出そうとするゲイカップルの成長、大げさにいうと人生の捉え直しみたいなことが描かれていると思いました。ただクィアと家族のテーマなら、子供が生まれてから親たちとどんな関係を作りながら育っていくのか、っていうその後が描けていたらそれはもっとすごいと思うけどね。

さて、日常付きまとう人間関係の中のいいことも悪いこともそれなりに見定めながら、しっかり地に足つけて生きていくというこのリアルな所帯感のようなものに、橋口監督の新境地があらわれていると思います。でもまだまだ大人になれない私は「渚のシンドバッド」の方がお気に入りだな。「ハッシュ!」を観たら、ぜひ監督の他の作品と比べてみるのもいいと思いますよ。今度は「二十歳の微熱」も観なくっちゃ。
(2002/04/22up)
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