「死体」をめぐる映画のパズル
(2001.2.6)
「ゴッド・アンド・モンスター」(1998)で僕がもっとも気になったのは、ラストのプ
ールに浮いた死体。これは、ビリー・ワイルダー監督の映画内幕もの「サンセット大通
り」(1950)の有名なシーンの引用なんだよね。この「プールの死体」、「ゴッド・アンド・モンスター」に限らず、映画祭で上映された「ハスラー・ホワイト」(1997)
や「ロッキー・ホラー・ショー」(1976)など、何かとクィア映画で引用される名場面
。アンディ・ウォーホルが制作した「HEAT」(1972)は、そのまま「サンセット大
通り」のパロディに仕上がってたりする。でも、何で引用されるの?
「サンセット大通り」は、売れない若い脚本家と落ちぶれたサイレント時代の大女優の物語。ハリウッドでは、いくら大物でも売れなくなったら、もはや死体同然。かつて得た栄光を取り戻そうと躍起になる女優を、誰も相手にしようとしない。しだいに
女優は狂気に走り…。ワイルダーが意地悪なのは、この役を実在のサイレント映画の大女優グロリア・スワンソンに演じさせたところ。しかも執事役には「グリード
」(1924)などの大作をとり続け、のちにハリウッドから追放される映画監督エリッヒ・フォン・シュトロハイムを起用してる。物語を地でいく映画人が演じてるのだから
、鬼気迫る演技と圧倒的な存在感ははっきり言って怖いぐらい。華やかなハリウッドでの生活と惨めで孤独な長すぎる後生。この映画がクィア映画でよく引用されるのは、「私は女優よ!」というオーラを放つスワンソンの過剰気味な演技がゲイ受けするということもあるんだろうけれど、当時、存在を黙殺され続けたゲイの人々が共感するところがあるのかも。
もう少し考えると、この執事は元映画監督であって、スワンソン演じる女優の育ての親という設定なのね(シュトロハイムとスワンソンは、実際にも仕事をしている)。
だから、劇中でのグロテスクな女優というのは、監督が作った怪物なわけ。製作者と怪物。ここで、ジェイムズ・ホエールの「フランケンシュタイン」(1931)と繋がってくる。「サンセット大通
り」で描かれる映画史の亡霊たちは、ホエールと同時代の人間であって、ホエール自身もまた、亡霊のひとりなんだよね。
先に述べた、同じシーンの引用がある「ロッキー・ホラー・ショー」もまた、人造人間を作る話。登場人物の中には、「フランケンシュタイン」を意識した衣装に身を包む者もいる。さらに、この映画が、ホエールの「魔の家」(1932)を元ネタにしてると
いう事実を知ると、「あぁ、なるほどね」とわかったような気持ちになるのだ。
(michi-ta)
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