イッショウガイ


7/16 14:05~ @スパイラルホール
★舞台挨拶あり

作品解説・インタビュー

[ヒューマンドラマ][T]
※日本語以外のすべての作品に日本語字幕がつきます。

英題:liFeTiMe
監督:谷碧仁
2017|日本|108分|日本語

ひとつの大きな障害が全てを紡ぐ
障害とは何なのか。偏見と差別とは何なのかを問う現代劇

…人生の元を取るんだ。

〜舞台は大阪〜
ある日、母が倒れた。
高校生のマユに降りかかった大きな不幸だった。
障害…
母親が、母親でなくなっていく。
あの日から、幸せだったはずの家族は確実に変わった。

〜舞台は東京〜
ある日、幸せを感じた。
横には好きな人がいて、俺には友人がいる。
そして、夢の職業にも就いた。圧倒的な幸せがそこにあった。
あの日から、自分が、自分になっていく。


作品解説

本作『イッショウガイ』は、昨年末に新宿で上演された舞台「イッショウガイ」を記録した映像作品である。舞台は本来、生で体感してこそ真の価値があるとは思うが、魂をゆさぶられる程の演者たちの迫真の演技は、映像からも十分伝わり、感動を呼び起こす。今回、レインボー・リール東京〜東京国際レズビアン&ゲイ映画祭〜の大スクリーンで、多くの観客とともに体感してもらう企画となった。

本作は、ある日、幸せな家族に大きな衝撃が走り、その日を境に人生が一変する女子高生の物語であるが、女子高生時代の大阪と、その後東京に上京した彼女が辿る人生のふたつの時空を、ひとつの舞台上で展開させている。

主演は、「仮面ライダーフォーゼ」の出演で人気の土屋シオンが東京時代を、元AKB48の女優、田名部生来が大阪時代を演じていることも注目だ。

本作のプロデューサーである丸若薫は、俳優として活動しつつ、劇団「ニジーローモーチャー」の主宰でもある。本作の企画・脚本を務めたのは、FTMであり、タレントとして活動している若林佑麻。当事者だからこそ書ける説得力のある脚本に仕上がっている。

プロデューサーの丸若氏に、レインボー・リール東京〜東京国際レズビアン&ゲイ映画祭〜での上映について、現在の気持ちを伺った。

映画祭:今回、東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で『イッショウガイ』が上映されることになり、お気持ちはいかがでしょうか。

丸若:一俳優としても、プロデューサーとしても、映画のお仕事の経験はほとんどなかったので、正直まだ信じられないというか実感が湧いていません。でも、たくさんの方のおかげで舞台が上演でき、映像にもできて、今回の上映に至っているので、改めて関わってくださったすべての方や、劇場に足を運んだり応援してくださったりした皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。

映画祭:以前から、東京国際レズビアン&ゲイ映画祭の存在はご存知でしたか?

丸若:存じ上げておりました。いつか俳優として一作品に関われればいいなと思っておりましたが、応募する立場になるとは思っていませんでした。今回の応募は『イッショウガイ』企画・脚本、若林佑麻の発案なのです。

映画祭:丸若さんは俳優もされていますが、最初から制作側への興味もあったのですか? 制作も手掛けたいと思ったきっかけはあったのでしょうか。

丸若:尊敬している演出家さんに「まるちゃんはプロデューサーの才能もある」と言われたことがきっかけでした。俳優として、自分で自分の俳優としての仕事を作れるようになっておいて損はないと思ったんです。丸若は生物学的には男性で、恋愛対象も男性なのですが、「マジョリティ(ヘテロセクシュアル)とは違う、性に対する視点が武器」とも言われて、どうせやるならその視点を活かした作品が観られる団体にしたいと考えて活動してきました。

映画祭:ご実家は寺院で、丸若さんは僧侶の資格もお持ちと伺いました。それは、制作される上で、あるいは俳優業に影響を与えていますか?

丸若:お芝居をはじめるときに住職である父と約束した条件が「僧侶の資格は取ること」でした。父自身も俳優志望だったので、その影響は大いに受けていると思います(笑)。制作をする上でも俳優をする上でも、死生観だったりとか、意識していないところで宗教的な背景が作用しているところはあると思います。4年前に『青の祓魔師』という漫画原作の舞台に出演させていただいのですが、そのときはお坊さんの高校生、三輪子猫丸役をオーディションで勝ち取りました。

映画祭:キャスティングは丸若さんがされたのでしょうか? 土屋シオンさんや、田名部生来さん、武藤晃子さんらを起用された経緯は?

丸若:脚本の若林の、役に対するこだわりを聞いて、相談しながら決めていきました。特に身長など外見を重視していて、土屋シオンさんは、若林が以前お仕事をしていたこともあり、事務所に直談判をしに行って出演が決まりました。
今回は、半分は関西のお話ということで関西弁が話せる女優さんを探していたのですが、いろいろな舞台に出演されている田名部生来さんのお名前をふと思い出して、twitterのbio欄の「女とゲイと子供にやさしい」という文言にも惹かれ(笑)、知人を通じてオファーさせていただきました。
武藤晃子さんに関しては、たまたま私も若林もお芝居を観たことがあって、「オカン役は絶対武藤さんだよね」と、真っ先にお願いをしました。
他にも薫太さんは若林の中学からの、乃下未帆さんは丸若の学生時代からの友人だったりと思い入れの強いキャストが集まっています。

映画祭:稽古はどれくらいの期間されたのでしょうか?

丸若:お稽古は上演の約1ヶ月前からはじめました。なかなか皆さんのスケジュールが合わず、スケジュールを組んでくれた演出助手の野田麻衣さんや、アンダーの向野ひかるさんには本当に助けられました。お稽古前の激しいアップやミニゲームがとても盛り上がっていたのですが、制作の仕事をせねばならず……内心とても参加したかったです(笑)

映画祭:脚本は、本作では若林佑麻さんでした。すべてお任せになったのか、丸若さんのアイディアや、助言も入っているのでしょうか?

丸若:前作『ニューヨークで猫を殺す方法』をご覧いただくと分かるのですが、丸若自身はミステリーやサスペンスが好きなので、あくまで俳優のファンの方が何も知らずに観に来てみたら、先述のような「性の視点が活かされた作品だった」という風に見えたいということは最初に伝えたと思います。脚色・演出の谷碧仁さんは若林が連れてきたのですが、「谷さんと僕が作る脚本をまずはプレゼンさせて欲しい」とのことだったので、基本的には任せていました。麻友役を(AKB48の7代目じゃんけん女王の)田名部さんが演じると決まったときは、失礼ながら、「ウチ、じゃんけんだけは強いねん」というセリフを入れて、とアイディアを出しました(笑)。

映画祭:なるほど、あのセリフはそこからだったんですね(笑)!今回、東京国際レズビアン&ゲイ映画祭での上映ということで、せっかくの「性の視点が活かされた作品だった」というサプライズは、事前にお客様にバレバレなのが残念ですが(笑)、公演時には、驚いた観客の方も多かったでしょうね。まさか土屋さんや田名部さんがこういった役どころとは気付かずに観始めたでしょうから。
最後に、このインタビューを読んでいる方々へ、本作を観てもらうためのアピール、メッセージをお願いします。

丸若:『イッショウガイ』という舞台は、ニジーローモーチャー名義で上演しましたが、このお話の元になっている人生を歩んできた、脚本、若林佑麻の持ち込み企画です。時にはまわりともぶつかりながら、自分と向き合って、魂を削りながら書き上げてくれたリアルやエネルギーがたくさん詰まった作品になっています。東京国際レズビアン&ゲイ映画祭では舞台作品の上映は異例とのことですが、冒頭、お芝居がはじまる前の劇場の客席が映ります。これを読んでいるあなたも劇場にいるつもりで一緒に観ていただけるとうれしいです。ありがとうございました。