 |
『ヨッシ＆ジャガー』のエイタン・フォックス監督が、宗教、人種、紛争、暴力、愛などのキーワードを織り込み、イスラエルの若者達をリアルに描いた待望の衝撃作！
□エルサレムでの気楽な生活を楽しんでいたノアム。そんな彼が徴兵で派遣されたのは、緊迫した国境地帯だった。その体験が、彼と友人達との関係を徐々に変えていく。
彼らの作り出す「泡」は生きていくための必然だと思っているんだ。
■エイタン・フォックス監督とプロデューサーのガル・ウホヴスキー氏のインタビュー
□テルアビブの「バブル」
□エイタン：「バブル（あぶく）」って言葉は、イスラエル人が一般的にテルアビブでの生活について語るときに使う言葉さ。映画の中の若い登場人物は、テルアビブという大都市の特別なエリア且つ流行最先端を行く斬新なシェンキンストリートに住み、働いている。そして僕たちもそのエリアに住んで、働いているのさ。
□ガル：そこでの生活は、単に物理的なものだけじゃなくって、精神的な事までにおよぶんだ。シェンキンストリートには色んな人がいる。信心深い人、宗教なんか信じちゃいない人、年寄りから若者、そして家族までね。そしてイスラエルのクリエイティブな人種の多くがここに住んでいるんだ。この、とても小さなエリアに！だから、ここは一種の「芸術的温室」、って感じかな。カフェやお店がひしめき合っている活気に満ちた場所で、多くの若いイスラエル人はチャンスがあればここに住みたいと思っている。だから僕たちにとって、テルアビブは家でもあり、そして感性の源でもあるのさ。
□生きるための技巧
□ガル：もしあなたが若者で、ニューヨークやロンドン、パリの同年代のやつらと同じように生きたかったら中東の厳しい現実のことなんか考えちゃいけない。テルアビブの生活は厳しいからね。問題なのは運命というのは、個人の自由意志よりも強いものでそこからは逃げられないってこと。人は皆、泡の中に住んでいると僕は思うんだ。みんな、狭い近所のことが全てだって思ってしまっているのさ。
□エイタン：「バブル」って言葉に対して批判する人々は、多くのテルアビブの人々のライフスタイルを見て批判している。確かに、テルアビブの人々はこれまで耐えられないようなイスラエルの現実から意識的に離れてきたのは事実だと思う。彼らは他のイスラエル人からは、表面的だとか無責任だとか見なされている。僕たちはもちろん、そんな風には見てはいない。彼らの作り出す「泡」は生きていくための必然だと思っているんだ。
□テルアビブが大好き
□ガル：テルアビブはとてもイケてる場所だね。イスラエルについての情報をCNNなんかから得る人たちは、そのクレイジーなイスラエルの中心に、気楽で楽しくてフレンドリーで、他のヨーロッパやアメリカの大都市とそっくりな場所があることを知って驚くだろうよ。
□エイタン：僕たちはテルアビブが大好き。だから映画「バブル」はある意味、街へのラブソングのようなもんさ。社会的にも文化的にも活気に満ちているこの街は、イスラエルで唯一のリベラルで進歩的な場所だよ。でも、今の戦火の中では、テルアビブの「バブル」な側面はいっそう強く批判されてしまう。戦争においては、「バブル」な生活をする余地はないからね。でも、僕たちはこの批判には賛成できないよ。テルアビブの人々の多くはこれから、この戦争に対して活動的に参画していかなければならなくなるとは思うけど、ここに住んでいるような人々だけがこの戦争に対しての難しい疑問を投げかけ、文章を書き、デモを行い、そして戦争についての映画を作れるんだろう。
□イスラエルでのレズビアン・ゲイライフ
□エイタン：テルアビブは驚くほどに、世界中のゲイとレズビアンにとって最も心やすらぐ場所のひとつになったね。昔はそうではなかったんだけど、今の状況は、これまでのマイノリティーに対する抑圧に対する反発だと僕たちは考えているよ。
□ガル：イスラエルは一般的に言って、ゲイに対してとても寛容な国だ。主な理由としては、僕たちが戦争によって非常に色々と制限された状況であることが言えるかもね。若者が軍事や爆弾によってたくさん死んでいく国では、親というのは人生を違った形で評価する。だから、自分の子供にカミングアウトされたとしても、それは人生の終わりじゃない。彼はまだ生きているからね。加えて、多くののゲイの先人たちが、頑張ってきたのも大きいだろうさ。社会に対して僕たちがカムアウトして、長年訴え続けてきたことを誇りに思ってるよ。僕らの周りにはカミングアウトしていて、どこでもそれを隠さない人々がいる。例えば、この映画の音楽を担当し、また挿入曲であるガーシュウィン作曲の“The
Man I Love”を歌ってくれたイヴリ・リーダー(Ivri Lider)は、イスラエルで一番のロック・スターさ。彼はカミングアウトをし、そのことをはっきりと述べている。トランスジェンダーについての世論を変えた、ダナ・インターナショナル(Dana
International)、そしてカップルのレズビアンの歌手もいる。他にゲイのテレビの司会者や、政治家もいるんだ。
□エイタン：ゲイに対するイスラエル社会の寛容さは比較的短い期間で進み、しかも極端に現れたんだ。例えば、ゲイの登場人物がいる有名なテレビ番組（僕のシリーズである「フロレンティン(Florentine)」もその一つ）、イブリやダナのようなゲイのポップスター、そして政府の中にさえもオープンリー・ゲイの人がいる。
□ガル：それ自体は80年代から見え始めたんだけど、加速したのは90年代の終わりのプライムタイムのテレビ番組によってだね。それによってもっと明白になった。この現象は非常に早く、そして大きな形で起こったし、イスラエルの世論っていうのは劇的に変わる傾向があるからね。この場合は、それが幸いしたってことかな。
□イスラエル人とパレスチナ人の間のロマンス
□エイタン：イスラエル人とパレスチナ人との間のロマンスの話はいくつかあるんだけど、悲しいことに、ほとんどの関係は長続きしないんだ。
□ガル：パレスチナ人の社会で、まだゲイに対して本当にオープンでないことが難しい問題だね。ゲイである、ってことですら複雑なのに、ましてや敵と寝るなんてもってのほか。ストレートのカップルでは、ウェストバンクから来たパレスチナ人とは、なかなかうまく行かないのと似ているのかもね。イスラエルに住むパレスチナ人、僕たちが「イスラエル系アラブ人」と呼ぶ人と付き合っている人はよくいるんだけど。
□占領に反対するレイブパーティー
□ガル：僕は映画の登場人物たちを、心から活動に賛同しているようには描かない。残念なことに、活動家たちはいつも極めてガキっぽいやり方で活動するんだ。戦争が行われている場所に住んでいると、人は少し感情が無感覚になってしまう。生き残るためには冷静にならなければいけない。占領に反対するってことで企画されたレイブパーティー（実際にイスラエルで開催された）は、この事を示すいい例だろう。彼らの心からの抗議としてパーティーが行われたのだと思うけど、別の見方としては、これはとてもガキっぽいやり方さ。
□国境の検問
□エイタン：最近、多くのイスラエルの若者は、兵役や予備任務（作品中のノアムのように）をウェストバンクの検問所でやるんだ。ほとんどのイスラエル人にとって、検問所というのはパレスチナ人に会う唯一の場所なんだ。ここは戦争や占領の結果を示す不愉快なところだよ。
□ガル：検問所は占領のシンボルになった一方、パレスチナ人が個人的なレベルで侮辱される場所でもあった。そこではパレスチナ人の生活がいかに惨めになりうるのか、はっきりと分かってしまうからね。でも、イスラエルの軍隊は、この場所を自爆テロを防ぐために必要だったとか、色々と主張するんだ。
だから、こういう場所が争いの場になる。検問所の監視係としての女性たちがいるだろ。彼女たちは毎日、すべての大きな検問所に行って兵士たちがパレスチナ人に対して親切かどうかをチェックしている。そして、イスラエル住民は皆その場にやってきて彼女たちに金切り声を上げるんだ。
□ユーモアと哀愁
□エイタン：テルアビブでの僕たちの生活は多くのユーモアや楽しさで成り立っているけど、それは同時に現在進行形の戦争と共に生きている、という現実の厳しさに対する極端な反抗とも理解されるかもしれない。そういう感情を、僕たちは映画「バブル」の中で再現したかったんだ。
□ガル：どの映画にも、その中にはいくらかのジョークが含まれていると思う。それがマジメな映画だとしてもね。「バブル」の中にもジョークが含まれているけど、それは人々の生活がどんな感じなのかっていうこと自体がジョークなんだ。そして、戦争下においてのジョークっていうのは、たまに笑えないものなのさ。
 □希望と絶望
□エイタン：この作品と、テルアビブでの生活は希望と絶望の間を行ったり来たりする。ある時には僕たちは、自分たちの人生は何か違ったものを作り出せて、愛と自分たちが熱狂的に取り入れてきた進歩的なものの考え方や行動の仕方がすべてに打ち勝つと信じている。そして、ある時には状況は絶望的で、僕たちは自分たちの考えに同意しない、映画の終わりにノアムが言うような、「決して理解されない」ような人々にとり囲まれていると考えるのさ。
□ガル：僕はすごい楽観主義者さ。そして、この映画が存在するっていうこと事態が楽観視できることだと思うよ。また、この作品がイスラエルでヒットしたこと、若者の間で大人気だったことも、楽観的でいられる理由だね。今は恐ろしい戦争が起こっている。でも、未来はもっと良いものだと信じなきゃいけない。そうじゃないんなら、なんでわざわざこんなとこに住んでいるんだ？
□エイタン：若い男女が人生と愛の中じゃなくて、戦争の中で婚約しなきゃいけないのは悲劇的なことだ。しかし、これらの人々は挑戦することを主張し、愛と変化が大きな希望の源であることを依然として信じているという事実がある。
□ガル：映画「バブル」はロミオとジュリエットみたいな感じの悲劇。そもそも最初から悲劇だよね。この先起こるであろう悲劇が予想できる。でも、あなたが映画を見終わった後に、結末がどれだけ悲劇的であったかだけを覚えているのではなく、彼らはどれだけ美しく、また幸せであったかということを覚えてて、その記憶が残り続けたらいいな、って思うよ。
□論争
□エイタン：この作品はイスラエルで多くの論争を引き起こした。十分に左翼的でない、左翼的過ぎる、とか、ゲイ過ぎる、十分にゲイ的でない、とかね。映画を観た人々は作品について語らずにはいられなくなった。作品についての非常に多くの記事も書かれたしね。
□ガル：映画のことを扱った記事は、「『バブル』は本当に存在するのだろうか？」から「ユダヤ人とパレスチナ人のカップルは新しい流行なのか？」というものまであったけど、「バブル」という単語はどこでも使われたね。
□エイタン：これまでの観客は主に若い人々だった。彼らが劇場にあふれるほど来てくれたおかげで、「バブル」は去年、イスラエルにおいて唯一商業的に成功したイスラエルの映画となった。多くの劇場のオーナーが言ってることは、映画が終わった後に、観客の集団が入り口に集まって、その場を立ち去りたくないといった感じで映画の内容について語り合ったり議論したりしていたということだ。この成功は、戦争が起こっている状況下で、人々は自分の家を離れることに対してびくびくしているという事実を考えると実に面白い。僕たちにとって、イスラエルの若者が作品によって提起された問題に対して立ち向かい、そして作品の考えを自分の中に持ってくれていることが重要なんだ。
|
|
 |
|
| ■ |
邦題：バブル |
| ■ |
原題：Ha Buah |
| ■ |
英題：The Bubble |
| ■ |
監督：エイタン・フォックス |
| ■ |
製作国：イスラエル |
| ■ |
製作年：2006年 |
| ■ |
上映時間：117分 |
| ■ |
上映言語：ヘブライ語／アラビア語／英語 |
| ■ |
上映字幕：日本語／英語 |
| ■ |
上映歴：アジア・プレミア
（アジア初上映・イスラエルを除く） |
| ■ |
|
| ■ |
受賞歴： |
| □ |
ベルリン国際映画祭 2007年C.I.C.A.E.賞 |
| □ |
マイアミゲイ＆レズビアン映画祭 2007年最優秀長編作品賞 |
|
|
 |
 |
|
| ■ |
ヨッシ＆ジャガー
*注意 今回の上映作品ではありません。 |
|
| □ |
ストーリー：レバノン国境のイスラエル軍。任務に忠実な部隊長のヨッシと陽気でオープンな部下のジャガーは、人目を忍んで関係を続けている。そんなある日、部隊は奇襲作戦を開始した…。軍隊という過酷で特殊な環境に身を置かざるを得ない、イスラエルの若者たちの恋愛と現実。そのリアルな心情を実話を元に描写した、ピュアで切ないラブストーリー。 |
|
|
| □ |
監督：エイタン・フォックス |
| □ |
製作国：イスラエル |
| □ |
製作年：2002年 |
| □ |
上映時間：67分 |
| □ |
日本公開情報：2004年の当映画祭で上映 |
|
|
|
|
|
|
